SSS

□それでもやっぱり
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最終回で、初めて見て登場人物も設定もわからないにもかかわらず、土方は隣でぐすぐすと泣いている。半分酔ってるから、そのせいもあるだろうが。
たまたまつけたテレビでやっていたドラマは、一度別れた男女がもう一度よりをもどすという話だ。再会するまでに、二人はそれぞれべつの恋人も作り、片方は結婚目前までいった。しかもこの二人、別れた原因が、二人の血が繋がってるとかいないだとか、そんな、まずありえない設定だった。
いまその元カレと元カノが、抱きあっているところである。

「おまえっ…感動しねぇのか、この薄情者っ…!」
「いや、まあ、ねぇ…なかなかこんなぶっ飛んだケースのカップルいねぇからさァ、現実味にかけるっていうか」
「だからモテねぇんだお前はっ」
「いいよもう、土方で十分だ」
「あぁぁくっついたー…!えっく、よかったなあほんとに…!」

いやあ、それだけ感動していただけるなら、こちらとしてもよかったよ。
背中をさすってやると、本格的に泣き出してしまった。やっぱりあの女は彼が相手ではじめて幸せになるんだとか、愛に障壁はないだとか、お前どこのコアなファンだよ。初めて見たんだろ今日。それも後半三十分くらいしか見てねぇだろ。

あぁ、ドラマの二人にくらべて、俺たちの平和なことといったら。

「なあ土方」
「なんだ」

土方は涙声で、赤くなった目をこちらにむけた。

「俺たちさあ、ときどき会って、酒飲んで、しゃべって、セックスして、好きって言って、そんだけだろ」
「それがなんだ」
「なんかさ、そこの二人みたいな波乱万丈な運命でもないし、大げさな恋なんてできねぇじゃん、俺たちまず別れようとかいうビッグな展開が一切ないし」
「案外地味だもんな」

ドラマティックな話に結構あこがれをもっているらしい土方は、ふんふんとうなずく。

「でもな、俺、こんだけ同じことばっかしてきてんのに、お前見ると、やっぱ好きだなあって思う。前よりもずっと」
「なんだ、だからいっぺん別れてみようとか言い出すかと思った」

土方は興味なさげに、ソファの背もたれのうえに頭をあずけた。

「そういう大げさなことが、なかなか起きねぇんだって。悪いけど俺たちに起承転結はねぇよ、ずーっとだらだら平和に恋してんの」
「面白くねぇなあ」
「ね、せっかく天人が来てんだからさ、もっと不思議なこと起こったらいいのにな。たとえば土方がもう俺にすげえ甘えたになる薬を飲んだとか、子供になっちまうとか」
「うわ、ありえねーお話だな。なんだそのファンタジーな薬、あったとしてもまず飲まねぇって。てか警察として押収モンだな」
「だからこんな夢のねぇ話になるんだ」

そうかー、と眠たくなってきたのか、土方が気の抜けた返事をした。

「まあ、俺は土方が好きだから、そんで満足だけどね」
「俺もべつに、なんでもいい。毎日ドラマみてぇなことになったら泣いちまうもん」

上をむいたまま、土方が目を閉じて言う。

「あぁ、俺もそう思うよ。…なあ、抱いていい?」
「結局、いつもといっしょだな」
「今日はアブノーマルなプレイしてみようか」
「いや、結構」
「あーあ、なかなか漫画とかドラマみてぇにいかねぇなあ」
「俺たちにそんな脚本の力があるとおもうか」
「いや、ねぇな」
「ほら、やっぱり」

俺たちはずっと、こうやって大した起伏のない、いつも通りの平穏な恋をしていくらしい。

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