SSS

□ため息
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身体が、主に腰がだるくて、寝転んだまま大きくため息をついた。上から見下ろしてくる彼が、目を細めて顔を近づけてくる。

「こら、ため息つくと幸せが逃げるぞ」
「…逃がしてやってんだ、俺じゃ窮屈だろうから」

言われるだけじゃ癪にさわるから、言い返してやった。もう十分、俺は幸せだった。逃げるのは、飽和状態になって居場所のなくなったものたちだ、きっと。

「じゃあ俺が責任を持って吸いこんでやる」

すうう、と深呼吸でもするみたいに息を吸う。息を吸えば息を吐くのはあたりまえのことで、はあ、と空気を出してから、はっと口を手でおおった。今ので逃げた幸せは、たぶんそのへんにふわふわと漂っているのだろう。また彼は大きく息を吸う。
そのムダな動きがおかしくて、少し笑った。

「あーどうしよう、やっぱ息吐いちまう」
「不条理な世の中ですね坂田さん」
「うーんそうだなァ…あ、わかった」

お前からもらったものは、お前に返せばいいんだ。
名案を思いついたと言わんばかりの嬉しそうな顔をした彼は、俺におおいかぶさって、ゆっくりとおりてくる。

「幸せになれよ、土方。もちろん隣は俺ね」

下唇を撫でられたから、おとなしく口を開けた。

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