SSS
□喧嘩
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土方が喧嘩をしていた。刀を振り回すとかじゃなくて、相手をグーで殴る類の、若いニーチャンがやる、そんな喧嘩をしていた。
相手は五人で、けっこう腕のたつ奴だったらしい。土方の口元には血がにじんでいた。俺はうなだれた。あれが原因でちゅーを拒否されたらたまったもんじゃない。
相手の拳をよけた土方がふらりとバランスを崩した。相手もそれを見逃すほどの素人ではなかった。
「ケーサツがっ…なめてんじゃねえぞっ!」
ゴスッと鈍い音がして、飛ばされた土方が壁にぶち当たった。ずるずると地面に落ちる。
あーあ、殺してやりてえ。
「で、土方くん」
半殺しで我慢したことは評価してほしい。が、座り込んだ土方はむすっと押し黙ったまま、何も言わない。ちらちらとその辺に転がった男たちを横目で見ては、残念そうな顔をする。喧嘩を続行したかったってか、ふざけんな。
「俺がいかなかったら危なかったんだぞ。だいたい刀あんのに五対一で素手ってお前、あーもう怪我しやがるしよォ」
ぺっと血を吐いた土方の頬が膨れる。可愛い顔だが傷だらけ。
「何が起こるかわかんねえんだぞ?変に手ェぐねるとか、仕事に支障きたして斬られたら」
「…でも勝てた」
「ひーじーかーた」
「…ハイ」
土方は膝を抱えて親に叱られる子供みたいに小さくなった。
「こんなとこで喧嘩売らなくてもさあ、俺が相手してやっから」
「それはいやだ」
「あ…そう?」
やけにはっきりした拒絶だったので驚いた。
「なんで」
「殴りたくない」
「お前しょっちゅう俺のこと殴ってんじゃん」
「恋人は本気で殴りたくない」
俺は思わず黙った。なんつー可愛いことを言ってくれる。あ、ほだされそう。
「そんな、大好きな彼氏をグーで殴るなんて」
「土方くん、だからって喧嘩を許可するわけにはいかねえなあ」
大げさにいい子ぶりだした土方、これはうまく逃げるつもりだということはすぐにわかった。いけないいけない、土方は俺の弱いところをよく知っている。
「…あまりしないように努力します」
作戦がバレた土方は肩をすくめて、小さく言った。手当てをするからウチにおいでと言って、土方に手を差し出す。今日はこのへんで許してあげよう。
わかっていることだが、俺は土方に甘い。