SSS
□大きな緑のあいつ
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チャイムが鳴って、ガラガラ、と玄関を開けた土方は思わず一本退いた。動けない。声も出ない。おはようございます、と頭を下げた彼に、ぎこちなく頭を下げるしかできなかった。
「あのぉ、じつはこの季節ピッタリのお花を仕入れましてね?」
花が揺れる。頭の上の花が。
「万事屋さんにもぜひと思ってお伺いしたんですが」
角が生えた緑色の怪物。一度銭湯かどこかで会ったときは味方もいたし、それほどでもなかったが、いざサシで向き合うとなると…。
「ひっ…」
ずい、と頭を近づけてきた彼に、引きつった叫び声がでた。
恐怖だ。そうだ、どんな敵を前にしても今まで感じたことはない。けれど、わかる。これは、恐怖だ。膝が笑っている。
銀時に出てもらえばよかった。客が来ているのにトランクス一丁で万事屋をうろうろしている銀時に、慌てて寝室に隠れるように言って出てきたのが間違いだった。
「あ、そうだ、坂田さんいます?」
「…あっ、あっ、…えっ…と」
「あぁ大丈夫ですよ、お忙しいならまた日を改めて…朝っぱらからご迷惑でしたよね、すみません」
「いえっ…」
そうだ、これを渡しておきたくて、と言って、彼は手に持っていた紙袋の中から一輪の花を差し出した。
「ハイ、どうぞ」
大きな手に小さな花。手を出したらどこかへ連れていかれるんじゃないかと思った。
「あ、俺もらいますよ」
すっと後ろから手が伸びる。銀時だった。トランクス一丁でも、スーパーヒーローに見える。
「またそっち行かせてもらいます、今日はわざわざどうも」
「いえ、こちらこそおしかけてすみませんでした、では」
そうして彼は帰っていった。
「…お、お前、またっ、今度、行かせてもらうのかっ…」
「だれが行くかあんな怖えとこ!…あれ、つーか土方くん、なにこれ?」
土方は銀時の、花をもっていない方の手を握りしめていた。
「怖かったの?あれれー真選組の副長さんが天人見て怖がるなんてー?それでも…って、え?土方?オイ、どしたの」
「…えぐっ…」
うええええん、と子供のような泣き声をあげた土方を、銀時は慌てて抱き上げた。後で聞くと、人生最大の恐怖だったのだそうだ。