SSS

□あと三歩
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朝起きると、左手薬指に赤い糸がぐるぐる巻きになっていた。糸の先は、廊下へ出ている。沖田の仕業か?土方は目をこすりながら、自室を出た。

「なんだこれ?」
「さあ?沖田隊長かなあ」

ぴんと張った糸を廊下で不思議そうに見る隊士の横を、糸を巻きとりながら通り過ぎる。
そのまま屯所の庭へ。先を見ると、なんと屯所の外へ続いている。

「ザキ」
「はいよ」

刀を腰にさして、着流しのまま土方は屯所の外へ出た。油断は禁物、糸が原因で斬りつけられましたなんて言えない。土方の胸のあたりにまっすぐ浮いている糸は、大通りに続く。
当然人々の視線はこちらに向く。仕方ない。だって攘夷派の犯行声明とかだったら困る。
ぐるぐる巻きの糸は大きな塊になっていた。

そして赤い糸はかぶき町へ。あぁ、なんてバカな恋人。思った通り、道標はちゃんと彼の家を指している。階段をのぼると、糸は玄関の向こうへ。チャイムを鳴らす。

「すみません、坂田さんいらっしゃいますか」

ハーイいますよ、とやけに元気な声。こんな朝っぱらから起きてたのか。
およそ六時間ぶりに赤い糸の先っちょと先っちょが出会うまで、あと三歩。

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