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□対象はセンターに
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右手の人さし指を左手の親指につける。逆の指で同じことを。両手で作った四角形を、河原にいた絵かきはキラキラ光る川面に向けて、その四角のなかの風景を見ていた。
それをするだけで、どんな風景も絵になるんだと。スケッチブックには、四角のなかの絵をうつしているに過ぎないのだと。通りすがりの銀時にそう教えて、絵かきは筆を動かしていた。ときどき四角のなかを見ながら。

「…あぁ、さすが。絵になるわ」

団子屋の店先の長椅子に座って、銀時はあの絵かきにならって手で四角形を作っていた。対象は見回り中の土方十四郎。

「うん、綺麗だ」

やはり美人は違う。そこにいるだけで絵になる。確かに、銀時の目には愛のフィルターなるものがかかっているのだけれども。
土方がこちらに気づいて、首をかしげた。

「お兄さん、もうちょい右」
「なにやってんだ?」

土方は言われた通り少し動いた。銀時の真似をして四角を作り、意味がわからんとでもいうように肩をすくめる。

「いいよいいよ、そのままこっち来て」

まだ前ね、と土方が近づいてくるのを待つ。銀時がストップをかけないので、土方は銀時の四角から顔を覗きこむようにして目を合わせた。銀時の絵には土方の右目が大きく描かれている。

「土方、俺、画家になろうかな」
「なにバカ言ってんだ」
「お前みてえな綺麗なモンを描かないのはもったいないだろ」
「モデルになんて絶対ならねえぞ。あと最近贋作が流行ってて警察でも話題に上がってるから、絵なんか描いたらお前真っ先に疑われる」
「え、そうなの?じゃあやめる」
「はい、挫折」
「いいんだ、変に土方が出回って惚れられたら俺が困る」

銀時は四角を崩して、土方の頬を撫でた。絵のなかだろうが実物だろうが、土方は相変わらず綺麗だった。
抱き寄せられるのは、絵じゃなくて実物を知っている銀時だけ。ついでに唇も奪っておいた。

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