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□電車
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依頼で出かけていて、たまたまそこで仕事中の土方に会った。しかも午後から非番ときたから、運命の出会いのついでに一緒に帰ろうと行って電車に連れこんだ。たまにはパトカーじゃない公共施設を使うのもいいじゃないか。

「…電車なんていつぶりだろ」
「使わねえ奴って使わねえよな、俺も改札口通るのちょっとどきどきした」

江戸へ向かう電車はゆったりと揺れる。平日の昼間だったから、空いていた。前から二両目、俺と土方の他にはお婆さんが一人くらい。
土方は子供みたいに窓の外を眺めていた。顔は俺の方に向いていたから、その可愛い表情はよく見えた。俺はもちろん窓の外じゃなくてこっち。

ビルが次々に過ぎていく。もう江戸だ。

「…土方、ほら着いたぞ」

降りる駅に着いても、土方は立ち上がろうとしなかった。あんまり窓の外に夢中になってるのかと思って腕を引っ張ってみたけれど、逆に引っ張り返されてまた土方の隣に戻ってしまった。

「降りねえの?」

土方は黙って、俺の肩に頭を乗せた。窓の外はもういいらしい。なんだか疲れているみたいだったから、腕を回して頭を撫でてやった。都市部を過ぎれば風景は一変して、山と田んぼしかない。

「お兄さんたち、武州にでも行くんかい?」

不意に同じ車両のお婆さんに話しかけられた。

「え?あ、ええと…」
「江戸で降りない若者も珍しいもんだねえ、いいところだよ、武州は」

お婆さんには武州行き以外の選択肢はないらしい。彼女はそこで降りるみたいだ。

「──行きます」

土方がぽつりと言った。

「…え?」
「おお、そうかい」

頭を俺にあずけたまま、土方は小さく笑って、目を閉じた。よくわからないけれど、俺は土方をこのまま武州に連れて行くことになったらしい。

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