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□Things will work out.
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副長室で正座をした土方は、視線を落として、銀時に言った。

「…報告、が…ある」

途切れ途切れに言うのを不思議そうに見つめながら、銀時はあぐらをかいて、相槌をうった。
土方は小さくまとまって、しかし背筋はしゃんと伸ばして、息を吸った。やはり銀時の目は見ない。

「ちょっと待て、いいお知らせ?悪いお知らせ?」
「…悪い方」
「俺のこと嫌いになった?俺と別れるとか言う?」
「…さあ、それは、お前次第だな…」

一瞬さみしそうな表情を浮かべて、すぐに土方は顔を引き締めた。ガッと上げた顔、いつもより白い顔は、まっすぐと銀時を見た。

「報告します」

土方の声は、いつもより少し高い。あらたまった口調で──副長が幕臣として使うような物言いで、銀時へ話す。

「…私、土方十四郎、先日…三日前に、ある幕臣に身体を要求されました」
「…え?」
「会合での食事に薬を盛られました。動けませんでした。視界もぼやけていました。気がついたら部屋に放りこまれて、服を脱がされていました」
「…ッ、な、なんだよそりゃ…」
「抵抗はしたつもりなんです。言い訳じゃありませんが、身体が動かなかったんです。追いかけてきた一番隊の沖田が、俺に乗っかったままのそいつの、首をはねました」

土方は淡々と語る。
銀時の血の気なんてとっくに失せていた。

「内容が内容だけに、上も表沙汰には出来ず、結局全てがなかったことになりました。しかし、…しかし、そいつは、そいつには、尻に、突っ込まれました。その後、沖田が斬りましたが、あいにく傷ができて、しばらくは使い物になりません」

銀時はほとんど息をせずに、それを聞いていた。

「つまり、それに当てはまる言葉は、強姦、なんです。俺は、坂田銀時以外の男に、抱かれたんです」
「おい──」
「あなたの選択肢はっ…」

銀時の言葉をさえぎった土方は、そこで、初めて声を震わせた。
膝の上の手が、これも震えていて、ズボンをぎゅっとにぎりしめる。

「恋人をやめて、もとのお友達にもどる。たまに喧嘩をして、飲みにいく関係になる、あるいは…一切の交流を取り消して、金輪際、会わないようにする」

まくし立てるように、次から次へと言葉を吐いていく。

「俺は見回りのシフトと場所を変えます。あなたには、屯所への立ち入りを遠慮していただく。…あるいは」
「あるいは」

今度は銀時が土方の言葉を止めた。心は穏やかではなかったが、全くの暗闇ではなかった。

相手は銀時が制裁を下す前に沖田の手によって死んだ。もう終わってしまったのだ。今はこの怒りを爆発させる場合じゃない。
復讐じゃなくて、土方を助けてやるのが、自分のするべきことなのだと、銀時はわかっていた。

辛いのは土方だ。捨てられるのも、受け入れられるのも、どちらも彼を苦しめる。それでも、自分は土方に甘くしてしまうのだ。そっちの方が、まだ苦痛も小さいだろうと思って。

銀時は、優しく笑って、言った。

「あるいは、俺が、その泣きそうなツラしてるお前を抱きしめて、しばらく休ませてあげる。それは許されるかな?」

土方は肩を揺らして、俯いた。返事を聞く前に、銀時は小さく震える身体をそっと抱き寄せた。

「…怖かったろ、ごめんな、助けてやれなくて」
「ちがう、おれが…」

土方の額を銀時のそれとくっつける。義理堅い土方は小さな声で、何度か謝った。

「お前が謝ることじゃねえ。いいんだ、何でも。お前は無事なんだ。俺のことも、お前のことも、また今度ゆっくり考えよう」
「…こんど」
「ああ、今度からもまた、会ってくれるだろ?」

土方はうなずくようにまばたきをした。

「言いにくかっただろうけど、教えてくれてありがとな。ゆっくり考えりゃ、そのうちなんとかなるよ。別れるわけねえだろ?──好きだ、土方」

それを聞いて、やっと土方は銀時の首に腕を回して、静かに泣いた。






なんとかなるさ。

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