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□うさぎ目
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今朝、やっと退院の日をむかえた。久々の仕事でヘマをして、怪我をした。思いのほか大袈裟なことになってしまって、なかなか外に出られなかった。
一度万事屋に顔を出して、新八と神楽と退院祝いの乾杯(ただしいつもの薄い茶だ)をして、その後すぐに屯所へむかった。
土方にどう伝わっているか、何も知らない。
屯所の門をくぐると、沖田が出迎えてくれた。ニヤニヤした顔で、玄関先まで土方を連れてきた。隣には近藤もいる。真選組のトップが三人も出てきてくれるとは、ありがたいことだ。
土方は上目遣いに俺を睨んで、何も言わず突っ立ったままだった。
「どうだ万事屋、もう全快なのか?」
近藤が聞く。
「まあな、そんな大したことなかったんだけどよ」
「でも旦那、包帯チラついてやすぜ?」
「ああ、俺暴れるから無理やりこれで固定してんだって」
「じゃあアレだ、ちゃんと安静にしねえと…」
話をするなら局長室にでも来るか?と言って近藤が廊下を歩き出した。お話ついでにお菓子もつけてくだせェ、なんて言って沖田もついて行く。案内されたから、俺もついて行く。
「…土方?」
ついて来ない土方を振り返ると、やっぱり怖い顔をして、突っ立っていた。怒っているのだろう。
「旦那ァ、土方さん連れて来てくだせェよ、その人なかなか動かねえから」
近藤と沖田が先を歩いていく。
しばらくしてその土方がやっと、一歩、俺にむかって踏み出した。ゆっくりと近づいてくる。これは一発殴られるかな、なんて思って身構えた。
「…ほ?」
ぎゅう、なんてされたものだから、変な声が出た。土方は腕を俺の首に巻きつけて、静かに抱きついていた。
「…ばか」
くぐもった鼻声が、頭を押しつけられた右肩から聞こえた。
その「ばか」が、俺には一番堪えた。
「…悪ィ」
俺はばかだと思った。その時やっと痛感した。
どうやら俺は、土方を相当怖がらせていたらしい。抱き返してやると、土方の身体が少しこわばったのがわかった。すんと鼻を鳴らすのも聞こえた。ああ、俺は本当にばかだ。
ゆっくりと顔を上げた土方は、目のふちを真っ赤にしていた。ゆびでなぞるとそれに誘われたようにぽろりと一つ涙が落ちたから、もう一度、今度は俺から抱き寄せた。