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□家賃騒動
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何言ってんだい、家賃なら、アンタ三ヶ月先までこの前払ったろう?

銀時は口をぽかんと開けてしばらく固まっていた。
家賃を払った?この俺が?しかも三ヶ月先まで?ありえない。

「カウンターに封筒置いてっただろう?似合わないマネしやがって、やばい仕事受けたんじゃないだろうね、それとも変なモンでも食ったのかい?」

家賃。滞納に滞納を重ねて、そろそろたまが万事屋を襲撃しに来るだろうと思って、なけなしの金をお登勢に持っていったのだが、そんなことを言われてしまった。もちろん、家賃を払った覚えはないし、今までの滞納の分と三ヶ月先までの分と払える金は万事屋にない。
じゃあ誰が払ったのか。ありがたいことだが、少し気味が悪い。

「だからさ、よくわかんねえけど、家賃の分の金浮いちゃって」

土方に酒でも奢ってやろうと行きつけの居酒屋に飲みに出かけた。

「ふうん、そりゃありがてえな」

土方は素直に酒を飲んだ。誰がお前みたいな貧乏人に、とも言わなかった。

「そりゃ、副長さんみたいな高給取りにはわかんねえだろうけどよ」
「そうでもねえよ」
「なんで?」
「今月、ちょっと金欠かなあ」

土方は煙草を指で挟んだ手で頬杖をついて、ふわりと笑った。

「金欠?お前が?」
「誰かさんが半年も滞納していらっしゃるから」
「…はあ!?」

銀時は思わず大きな声を上げた。滞納?もしかして土方が家賃を納めていたのだろうか。

「お前が、払ったのか?」
「はい」
「…なんで」
「お力になれたらと思って」

さらりと言ってのける土方に、ぷつっと何かが切れる感じがした。

「──っざけんなよテメェ!」

土方の胸ぐらをつかんで立ち上がる。恐ろしい形相の銀時とは対照的に、土方は依然穏やかな顔をしている。
無性に腹が立った。土方と付き合っているが、決して金が目当てだとか、いい思いをしたいからではない。
土方が家賃を払ったことは、銀時の小さなプライドを踏みにじったようなものだった。それも三ヶ月先まで。一番やって欲しくないことだった。ふざけて奢ってもらうのとは違う、本気の金銭面のサポートなんて。
余計なことをするなと言いたい。でも経済的な差は目に見えていて、それも気に食わないのだ。

「旦那ァ喧嘩なら外でお願いしやすよー」
「親父ィ、ツケだ!土方、来い」

土方の手首をきつく握って、銀時は店を出る。連行するように大股で街を歩くが、土方は何も言わなかった。

「ババア!家賃の封筒出しやがれ!」

土方をお登勢のところまで連行した銀時は、店に入るなりそう叫んだ。

「なんだい、今更返せって言われても返さないよ」
「ちげえよ、こいつが払ってやがったんだ」
「なら礼でも言ったらどうだい」
「言えるか!俺にだってプライドくれえあんだよ!」

家賃なら俺が払うから、もう土方からは受け取るな。珍しく銀時は怒りに満ちた声を上げた。お登勢は目を細める。

「アンタがちゃんとしないから、副長さんが払うことになったんじゃないのかい」
「俺は…!」
「少なくとも好意でやってくれたんだ、アンタのしょーもないプライドよりそっちが先だろう」

手に力が入ったままなのに気づいて、銀時はやっと土方の手首から手を離した。赤い痕がくっきりと残っている。途端に、わいてくる罪悪感。

「…悪ィ、怒鳴って」

土方は黙ってゆるゆるとクビを振った。

「あーその、俺…ちゃんと家賃払うから、今度からはもう滞納なんてしねえから、…お前は何も心配しなくていい…よ」

そんなこと、言える資格はねえんだけど、と銀時は自嘲するように笑って、土方の手首をさすった。

「…じゃあ、お前が払うんだな」

すると、それまで黙っていた土方が口を開いた。

「え?ああ、もちろん」
「もう滞納しねえんだな」
「うん」
「…ふふ」
「は?」
「うくくっ」

急に笑い出した土方に、銀時はきょとんとする。

「さすがだねえ」

お登勢が言う。

「あ?」
「これで問題ないでしょう、本人の供述も取れたし。俺が証人になってもいい」
「へ?土方?」

土方も得意げな顔で言う。

「てことだ銀時、三ヶ月後から滞納は一切認めないからね」
「はい!?」
「たった今自分で言ったろ、家賃は自分で払いますって」
「今度からは容赦しないよ」
「有言不実行な男なんて俺ァ嫌いだぞ」
「え?…ええ!?」

組んでやがったのかァァァ!?

「は、発案者は」
「はい」

土方が小さく挙手をする。銀時は全身の力が抜けて、へなへなと土方に抱きついた。

「もうなに、なにお前…俺のことよくわかってんなー…」
「だろ」
「なるほどね、ババアと組んで俺に家賃払わせるってわけね」
「居酒屋のツケも忘れんなよ」
「ああっ!くそー俺としたことが…!」

ニィ、と笑ったお登勢と土方に挟まれて、銀時は今までのだらしない生活を反省したのであった。

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