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□らっきょ係の昼ご飯
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嫁さんの指は白くて細い。左手薬指にある銀色の指輪を外したりはめたりするのが、俺の最近のストレス発散法だ。そんな休日の昼下がり。
ソファの上、いや、俺の足の間に挟まっている嫁さんは、左手を俺に預けて、ずいぶん前に寝た。肩の上に乗っかった嫁さんの頭に頬を寄せながら、ぴったりサイズの指輪で遊ぶ。結構、贅沢だろ。
嫁さんは最初恥ずかしがってなかなか賛成してくれなかったんだけれど、俺にもたれて寝るのが案外よかったらしくて、今ではお気に入りらしい。確かに、ぐっすり寝ている。

「銀ちゃーん!トシちゃーん!」

チャイムが鳴る前に玄関の向こうから元気な声がした。

「…かぐら?」

起きた嫁さんが目を擦った。

「約束してたのか?」
「…さあ?」
「俺出てくるよ」
「いい、俺が行く」

あくびをしながら玄関へ向かう嫁さん、こいつは、俺が家にいる時は、なかなか俺を動かしてくれない。

「あ、指輪」

外したままだった。

「トシちゃん、これバーチャンからお返しアル」
「すいません、突然押しかけちゃって」

神楽に続いて新八も顔を見せた。
この二人は同じアパートに、お妙っていう新八の姉と一緒に三人で住んでいる。俺はよく知らないが、ある日嫁さんが二人を連れて帰ってきたことがあって、そこから俺たちとは仲良しだ。
バーチャンというのはここの管理人兼、近所のスナック(100ポイント貯まった時に、よく嫁さんを連れて行く)の経営者。これも仲がいい。

玄関から、なにやら紙袋をさげた嫁さんと、二人が帰ってきた。

「おおおお!私この『ふんわりオムライス』がいいネ!大盛り!」
「ああ、待ってろ」

そういや昼ごはんをまだ食べていない。今朝ご飯を多めに炊いたって言ってたから、大食いの神楽の襲撃にも耐えられるだろう。
彼らはウチの常連さんだ。最近は、嫁さんのキッチンに、ふざけて「TOSHI’Sキッチン」とかいう名前を神楽と二人でつけた。そんなにオリーブオイルは使わないけどさ。

「ええっ神楽ちゃん!トシさん、いいんですか…?」
「どうぞ?」
「ありがとうございます、えっと、うーん迷うなあ…あ、じゃあやっぱり『まぜまぜチャーハン』で!これいつも味が違うから、選んじゃいますね」
「あーじゃあ俺『いとしの銀時さまだけに贈る愛情たっぷり愛妻、えーっと愛妻手作り、ねぎと玉子丼』で」
「すいません、それちょっとお取り扱いしてないんですよねー」
「ええー?もうつれねえなあ、じゃあ『ねぎと玉子丼』で。愛情は入れろよ」
「はいはい」

嫁さんは笑って、紙袋を持ってTOSHI’Sキッチンに入っていく。
神楽なんかはまた嫁さんの漬けたらっきょに手を出そうとして、新八に怒られている。
バーチャンのお返しというのは、実はこのらっきょが結構近所で評判がいいらしくて、時々バアさんのところに持っていくんだけど、そのお返しがきたという話だ。たぶんスナックに置いてある酒か何かだろう。神楽は貿易商人係といったところか。

そういやまだ指輪を返していなかった。TOSHI’Sキッチンに少しお邪魔。

「十四郎、忘れもん」
「なんだ?」

早速お昼ご飯の準備にかかる嫁さんの肩にあごを乗せて、後ろから指輪を見せてやる。うーん、我ながらやっぱりいい指輪を選んだ。

「はい、手ェ出して」
「……」

時々行われるこのおままごとに、嫁さんは黙ってため息をついた。俺は気に入ってるんだけどな。
するりと細い指を通って、指輪はもとの居場所に戻った。

「結婚してくれてありがとな」

キスをしてみると、嫁さんは赤くなって、その辺にあったらっきょを俺の口に放りこんだ。うん、美味しいです。

「店長、美味しいです」
「だれが店長だ」
「俺の大好きな十四郎くーん」
「あー、ハイ。どーも」
「引くなよ!」
「はいはいありがとうございます」
「お前最近はいはいが多いぞ、はいは一回にしろ」
「はい」
「よし」

頭を撫でてやると、小さな声で、こちらこそ、と言った。

「ん?」
「…こちらこそ、ありがとうございます」
「なにが?店長?」
「だから、…結婚、…してくれたのが」

けっこう怖い目で睨んでくるけれど、照れ隠しだ。もう一度キスをして、あー今日は抱きたいなあ、なんて考えていると。

「銀ちゃん!らっきょ!らっきょがあああ!」
「銀さん!窓から入った猫がらっきょを!」

あれ、猫ってそんなもん食えんの?とにかく、嫁さんのらっきょはすごく人気らしい。そして、俺の嫁さん充電もこの辺でいったん終了らしい。

「おい、指名されたぞ、らっきょ係」
「しゃあねえな」
「くく、らっきょ係とか、だっせー」

嫁さんは自分の言葉に笑って、ご飯を炒めだした。さて、俺も二人の話を聞きにいくかな。
お昼ご飯は、もうすぐだ。

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