sss2

□ぶわり
1ページ/1ページ

前から走ってきた子供が頭を土方の刀にぶつけた。がちゃっと金属の音がした。何事もなかったように走って通り過ぎていく石頭の子供と、それを目の端で追った土方。

ぶわり、と土方の毛が逆立っている感じが、隣にいる俺にまで伝わってきた。今振り返るなよガキ、殺されるぞ。
土方は刀に触れられることを酷く嫌う。こいつがものすごく怒ったのは、すぐにわかることだった。

「…おい、土方」

それでいて、土方は無表情だから余計に怖い。涼しい顔をしているが、一度不快に思ったことは何年たとうが根にもったままなのだ。

「…なんだよ」
「気にすんなって」

小さなこだわりだ。刀は誰にも触らせないこと。意地になってそのルールを守り続けているのだろう。

「…じゃあ、お前は、俺がその辺の奴に触られても気にしねえのか」
「うーん、これまた難しい話を出してきやがるのなあ…」

土方は俺のことをよく知っているから、説教がしづらい。
ふざけたフリをして、腰に手を回す。わざと刀に手が当たるように。

「…てめ」

今度は顔に出して怒った。落ち着かせるためにキスをしてみる。恥ずかしがって大人しくならないかな。

「…いって」
「斬るぞ」

期待とは裏腹に、思いっきり舌に歯を立てられた。怖い怖い。

「まあまあ、そんなくだんねえポリシーは捨てなさいって」
「…あんだと?」
「こらこら、怒るなよ」
「怒るなって、俺にとっての刀は──」

知ってる知ってる、魂とかそういうもんなんだろ?刀が折れたってお前は死にやしないのに。

「心配すんなって、お前はそんなことしなくても強いよ」

ぴたっと固まった土方。じわじわと耳が赤くなっていく。効果はあったらしい。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ