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□ぶわり
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前から走ってきた子供が頭を土方の刀にぶつけた。がちゃっと金属の音がした。何事もなかったように走って通り過ぎていく石頭の子供と、それを目の端で追った土方。
ぶわり、と土方の毛が逆立っている感じが、隣にいる俺にまで伝わってきた。今振り返るなよガキ、殺されるぞ。
土方は刀に触れられることを酷く嫌う。こいつがものすごく怒ったのは、すぐにわかることだった。
「…おい、土方」
それでいて、土方は無表情だから余計に怖い。涼しい顔をしているが、一度不快に思ったことは何年たとうが根にもったままなのだ。
「…なんだよ」
「気にすんなって」
小さなこだわりだ。刀は誰にも触らせないこと。意地になってそのルールを守り続けているのだろう。
「…じゃあ、お前は、俺がその辺の奴に触られても気にしねえのか」
「うーん、これまた難しい話を出してきやがるのなあ…」
土方は俺のことをよく知っているから、説教がしづらい。
ふざけたフリをして、腰に手を回す。わざと刀に手が当たるように。
「…てめ」
今度は顔に出して怒った。落ち着かせるためにキスをしてみる。恥ずかしがって大人しくならないかな。
「…いって」
「斬るぞ」
期待とは裏腹に、思いっきり舌に歯を立てられた。怖い怖い。
「まあまあ、そんなくだんねえポリシーは捨てなさいって」
「…あんだと?」
「こらこら、怒るなよ」
「怒るなって、俺にとっての刀は──」
知ってる知ってる、魂とかそういうもんなんだろ?刀が折れたってお前は死にやしないのに。
「心配すんなって、お前はそんなことしなくても強いよ」
ぴたっと固まった土方。じわじわと耳が赤くなっていく。効果はあったらしい。