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□可愛い人
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土方は酔っている。酔っているから、先程からこんなにふにゃふにゃと笑いながら自分を見つめてくるのだ。
居酒屋のテーブルに頬杖をついて、ふふーん、と嬉しそうに銀時を見ている。銀時はまだ酔っていなかった。土方だって、そんなに飲んでいないのに。疲れていて酔いが回るのが早かったのだろうか。
「お前って」
「…なんだよ」
いかんせん破壊力が凄まじいので、理性と戦うのに必死で返事もそっけなくなる。
土方は目を細めた。
「お前って、かわいい」
「……は!?」
きっかり三秒間をおいて、銀時は裏返った声をあげた。
「俺のことよく可愛いって言うけど、お前の方が可愛い」
「は、な、何言ってんの土方くん」
「ふふーん」
「ふふーんじゃねえよ!」
「うーん、なんか、そうやって俺見てがんばって抑えてるのが可愛い」
「だったら俺を見て幸せそうに笑うのやめろ!」
「ふふ、顔まっかっか」
「てめえが可愛いことするからだろ!」
「んー…俺の恋人さんは可愛いなあ…」
可愛いなあ、と言う途中であくびをした。リラックスしきった土方とは対照的に、銀時はテーブルに突っ伏してうめく。
「なにこいつ、なんなのもう…」
「おーおー、がんばれ」
「俺は時々お前がすげえイヤになるよ…」
「じゃあ別れて差し上げましょうか」
「嫌ですすみません」
「ほー、ふはは。わーこぼれた」
笑った拍子に酒がこぼれた。あーもう、と文句を垂れながら銀時がカウンターの奥に布巾をもらいにいって、テーブルをふく。
こういう細やかなことをするのはいつも土方だったが、今日は使い物にならない。酔いどれの土方は銀時を見つめてぼんやりしているだけだ。
「おら、気をつけろよ」
酒が半分になってしまったグラスを渡してやると、土方はそれを両手でしっかりと受けとった。気をつけているらしい。酔っているが聞き分けのいい奴だ。
「ご機嫌ね?土方くん」
「うん」
「危ねえから早く帰ろうな」
「危ねえの」
「危ねえんだよそういう状態のお前は!」
「そっか」
「そうだよ」
「ふーん」
「…」
「あ、話変わるけど」
「あー、なに?」
「お前いつも言うけど、おれってかわいいのか」
「うん、今のお前とか、とんでもなくね」
「お前もかわいいぞ」
「ハイハイわかった」
「おれ、お前がかわいいからすごくすき」
今度は銀時が酒をこぼす番だった。