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□ご執心
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土方は随分ご執心のようだな、と万事屋のソファに座る桂が茶をすすりながら言った。

「だろ」

そりゃそうだ。彼は冷たい態度が目立つがあれでいて銀時が好きなのだ。そんなのは知っている。
桂はそんなことを冷やかしにやってきたのだろうか。気分がいいのでもっと言ってくれたまえ、と銀時は少し偉そうに返した。

「は?いや、銀時のことを言っているわけではなくてだな」
「え、俺以外に?あーゴリラとか?いいよそれもうわかってっから」
「いや、あの、俺のつもりで言ったのだが」
「…は?」
「だから、この頃あいつは随分俺に入れ込んでいるなと」

銀時はしばらくポカンと口を開けたままでいた。そしてわなわなと震え始める。そこから突然爆発した。

「ふふ、ふっざけんなてめえェェェ!どど、どういうつもり!?いやいやいや、ありえねえから!おかしいだろ、土方がヅラ!?うそうそうそ、俺のがかっこいいよね!?俺の方が好きだよね!?」
「落ち着け銀時。そもそも恋愛の話じゃない」
「なに、お前まさか、まさか人妻がタイプってお前、土方に手ェ出したらまじでぶっ殺すからな」
「違う。土方に狙われている」
「あの野郎ォォォ!俺という彼氏がいながらどういうつもりだァァァ!なんだ、俺のテクニックじゃ物足りねえのか!?抜かず三発じゃ足りなかったのか!?」
「俺の命が狙われている」
「命ィィィ!?…て、え?命?」

そうだやっとわかったか、と桂が頷いた。

土方の仕事に対する熱心さは銀時もよく知っている。あり得ない方法で捕らえた浪士の口を割らせたり、隊士もこき使ったり、銀時には理解できないくらい細かい書類や作戦も書くし、近藤も知らないような秘密も多いらしい。
その土方に追われているのだそうだ。桂も大変だなあ、と他人事のように思った。

「この前もな、俺が入ったファミレスで周りを囲まれて…いや、まさか客全員を隊士にするとはなあ…」

もちろんそれなりに変装して紛れていたのだろうが、そこはやはり桂小太郎、しっかり見抜いている。

「エリザベスと仲のいい奴も隊士だった。バーのマスターも隊士だった。ツタヤのバイトも隊士だった!」
「あー、諦めた方がいいんじゃねえの?」
「貴様!俺に捕まれというのか!捕まったら貴様の昔の恥ずかしいアレコレ全部しゃべってやるからな!黒歴史みたいなやつ!」
「えええっ、そんな陰険なことすんの!?」

その時だった。
ピンポーン、と玄関のインターホンが鳴ったのだ。

「…土方?」

銀時の言葉を聞くやいなや、桂が湯のみを持ったまま押し入れに飛び込んだ。
まずい。そういえば土方が仕事終わりに寄るとか言ってたっけ。来いとわがままを言ったのは俺だっけ。
銀時は汗をかきながら玄関へ向かった。

「…は、ハーイ土方くん」
「…なんだその挨拶は」

予想通り、土方がいた。

「はいこれ、トイレットペーパー安かったから」
「ああ、ありがと、えーっと」
「喉渇いてんだ、ちょっと茶ァ」
「ちょ、ちょっと待て!今日は!今日はやめといた方が」
「あ?なんだまた散らかしてんのか?いいよ別にそんな怒んねえから」

慌てる銀時を無視して土方は居間に入っていく。
桂はこの短時間で逃げられただろうか。万事屋にある窓は玄関側、つまり土方側にある他は隣の壁に潰されていた気がするが。

土方は彼専用の湯のみに茶を淹れて、ソファでふうと息をついた。今すぐに抱きしめてやりたいが桂のおかげでそれもできそうにない。もう逃げたのか気配を消したのか、桂が今ここにいるかどうかはわからない。

「今日、総悟と隠れんぼしてて」

不意に口を開いた。

「へえ、そうなの、付き合ってあげてたんだ」
「まあ、あっちもプロだから、難しいんだけど」
「だろうな」
「でもなんか、俺、結構強くって」

笑う顔は妖艶で、どきりとした。そしてこれは、あまりよろしくない顔で。
立ち上がった土方は、迷わず押し入れに近づいていく。待て、という前にすぱんと開けた。

「──見ィつけた」

ニィ、と口角を上げた。中には刀の柄に手をかけている桂。
土方が湯のみを投げた。瞬間桂の刀によって真っ二つに斬られる。それを合図に土方が二歩三歩と後ろに飛び退き、腰を落として身構えた。

「ちょ、オイ!俺んちでやるなって!土方、危ないからこっち!」

嫌がる土方を腕の中におさめて、桂との間に入った。なにもこんな狭いところで真選組と攘夷派の幹部同士が決着をつけなくてもいいではないか。

「お前、本気でここで戦うつもりか?」
「…じゃあ何のために今まで…」
「うん?土方?」

歯切れが悪い。普通なら、喧嘩を邪魔されれば噛みつかんばかりに声を荒げるのに。

「…あの、桂」
「なんだ?」
「…その、こっ、こっちはだな、お前の十日後の会合について、全部お見通しだ」
「な、…やはり知られていたか」
「ったりめーだウチの監察をナメんじゃねえ」

あくまで上から目線の土方がそっぽを向きながら続ける。

「ちなみにその会合場所もいくつか予備があるのも知ってるし、人数と部屋の間合いもバッチリだ」
「くっ、クソ…」
「どうだ、日時と場所を変えた方がいいんじゃねえのか」
「…どうして貴様にそんなことをオススメされなきゃならんのだ」

土方はピキッと固まる。ちゃんと言った方がいいんじゃねえか、と銀時は助け舟を出してやった。
桂のことだから、ここで土方がボロを出しても命を奪うに至ることはないだろう。
土方の顔がじわじわと赤くなっていく。

「…その日は総悟が、ジブリの新しいのが地上波初放送だって駄々こねるし」
「あ、それお前も好きなやつじゃなかった?」
「う、うるせえ!あっあと、原田は整体行くって言ってたし、近藤さんは散髪行きてえって、それに先負だし、天気いいし、ザキはミントンの公式戦がどうのって…」

あ、銀時は閃いた。確か土方は、会合は十日後と言った。
その日の討ち入りはきっと、都合が悪いのだ。それを変えるために桂を追い込み、牽制するつもりだったのだ。
だってその日は。

「ハイ!発言させて下さい!」
「なんだ銀時、貴様まで──」
「その日は俺、土方とデートなので、会合キャンセルして下さい!」

その日は久々に非番の回ってくる土方とデートをする予定だった。その夜は、何もなければ、万事屋のテレビで映画を見て、セックスをして、のんびりと過ごすはずだ。討ち入りなんてしてもらっては困る。

「…土方、貴様はデートのためにあんなに俺を…」
「なっ、なっ、ち、違えし!お前をここで斬ろうと思ってただけだ!」
「土方くーん嘘はいけないねえ、絶対デートだよね、俺とデートしたかったんだよね」
「うるせってめえ何!?何言ってんの!?」

恥ずかしさのせいでヒスを起こしかけている土方とそれを突つく銀時を見て、桂は一人大きくため息をついた。

「最近のリア充とやらは爆発するのが主流らしいぞ」

懐から取り出した爆弾を放って、華麗に逃げて行った。後には天パの爆発した銀時と、口から煙を吐く土方が残ったそうな。






おまけ

「お前怖いよな、今回だけでヅラの秘密どんだけ掴んだのよ」
「あ?そりゃ隅から隅まで。ファミレスのメニューもな」
「管理社会ってやつ?怖えなー」
「”不埒なポリスとイケナイ遊び”」
「ハッ──!?」
「AVの趣味、ちょっとどうかと思うけどな」
「いっ、いつそれを!?」
「さあな、俺の仲間はあらゆるところに潜んでるから、変なマネはしねえこった」
「仲間って!?ウチにも潜入してんの!?俺を監視してんの!?怖ェェェ!」








「はっくしょい!…誰か私の噂したアルか?」

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