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□風に乗って
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見回り中の土方が向こうからやって来るのを見つけた。
寒波到来、昨日から江戸じゅうの人間が例年以上の寒さに震えている。こんな寒さのなか外へ出ているのも銀時ぐらいで、いつも人通りの多いこの道も酷く静かだった。
土方もついにコートを解禁したらしい。黒色がずっしりとしていて暖かそうだ。

風が皮膚を刺すように冷たい。びゅうびゅうと音を立てている。
銀時も羽織りとマフラー手袋を身につけているがそんなものお構いなしに冷気が突き抜ける。寒い。
土方が肩をすくめた。コートのポケットに両手を入れている。あちらも寒そうだ。もう銀時には気づいている。

「ひー、そりゃねえだろ…!」

ありえないほどの強風、それもものすごく冷たいのが吹いて思わず空を睨んだ。銀時にとっては向かい風、土方にとっては追い風だ。
風に吹かれて銀時の足は止まる。土方は二、三歩、不規則に前へ進んだ。風の威力に負けたらしい。
土方がふらふらとまた歩き始める。銀時はあまりの寒さに歩く気を失って、突っ立ったままだった。

両手を広げる。

「…はい、ゴール」

両手を広げた銀時の胸に、コートに手を入れたままの土方が、ぽすんとぶつかった。鼻のてっぺんが赤い。しかし顔は白く冷たく、突っついただけで割れてしまいそうだった。

「風で土方が飛ばされてきた、ラッキー」
「…わたげ」
「おっと、エラく可愛くなっちまったな」

寒くて口を開くのも嫌なのか、土方は黙って銀時を見た。鼻息だけで空気は白くなる。

「な、ポケットから手ェ出して背中に回してよ」
「寒い」
「俺だって寒い」
「俺も寒い」
「いや、そのコートは絶対イイやつだからあったかい」
「天パぬくそうだな」
「また天パの話だ!最近厳しいなお前」

また風が吹いた。どこかからか新聞紙が飛んでくる。風はそれを容赦無く電柱にぶつけた。ぴしゃっと音がする。
それを銀時越しに見ていた土方は手を出して、背中に回した。

「ん?」
「…俺、電柱に当たらなくてよかったな」
「電柱」
「風に飛ばされてぴしゃっと」
「電柱か、フォローできなくはないな。そりゃ、江戸城のてっぺんとかは無理だろうけど」
「じゃあお前、俺がどっかの屋根にある金のシャチホコとかに当たって死んでもいいんだ」
「ええっ、うーん、ちょっとそれはよくねえなあ…」
「ふ、バカ」

シャチホコに喧嘩を売る銀時でも想像したのか、土方が笑った。

「バカだよ俺ら、こんな寒い日に何やってんだ」
「風呂入りてえ、屯所帰る」
「俺も連れてって」
「んー…わかった」
「うそ、いいのか」
「俺が風に飛ばされないか見張る係」
「よし、引き受けてやろう」

風に飛ばされないように、手を握った。

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