小説

□プロローグ 少女と『光』
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巨木の周りを、緑の光が蛍のように飛び交っている。
 
 その枝には一人の少女が座っていた。
 
 彼女がゆっくりと差し伸べるように片手を上げると、その上に緑の光が乗った。
 
 点滅を繰り返す光。それはまるで少女と会話をしているようだ。否、実際に会話をしていた。
 
 少女の紅い目には、さまざまな光景が映った。
 
 泣き叫ぶ声。
 
 断結魔。
 
 割られる〈髪飾り〉。
 
 そして半分となった魂。
 
 少女の目からは、いつの間にか涙が流れていた。

「そう……分かったわ」

 小さい声でそう呟くと、光にそっと息を吹きかけた。

 緑の光は、円を描きながら、また巨木を囲んでいる光の仲間に戻った。

「己の姿を見た者こそ、魂を取り戻せる」

 ――〈半魂(はんこん)〉ではなく、完全な魂になるのだ。

「それまでしばし、待つのよ」

――私も一緒に待つわ。ここに辿りつけるものを

――〈魂の守り人〉として。

 そう呟いた少女の声は、誰にも聞こえる事なく、静かに響いた。

 少女は少し眠ろうと、目を瞑る。

 だが、その時、頭に声が響いた。鈴を鳴らすしているような、きれいな声だ。

(人だよ。人が来たよ)

 緑の光達が魂を通して、少女に語りかけているのだ。

(でも、感じない……魂の空白を感じない)

(完全な魂を持つものが来たのだ)

「それは本当?」

 少女の目は覚め、枝に寄りかかっていた体を起こした。

 規則正しく点滅を繰り返していた光達は、狂ったようにあちらこちら、飛び交っている。

 ガザガザと葉を掻き分ける音がして、少女がそちらに目を向けると、真っ白い

『鳥』を連れた、黒髪の少年が一人いた。

「ようこそ、〈神緑(しんりょ)の森〉へ」

 少年は少女の目を見た。少女も少年の目を見る。

 緑と紅の瞳の中に、互いの姿が映った。 

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