黒犬と白猫

□桜色ふわり
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あたたかな春の昼下がり


ぽかぽかとした陽の光が大きな桜の木のたつ草原に優しく降りそそぐ。
空の透き通るような青色と桜の可愛らしい薄桃色のコントラストはたまらなく美しく、見ているだけで心が和んでくる。

先日ふらふらと散歩をしていたときに偶然見つけたこの場所は、今ではファイのお気に入りスポットとなっていた。
今日もいつものように桜の木の下で仰向けに寝転がり静かに目を瞑る。
こうしていると考え事も悩み事も、何もかも忘れて穏やかな気持ちになれるのだ。それでも1つだけ、ファイにはどうしても忘れられないことがあった。


それはファイの恋人――
黒鋼のこと。


ここ最近、毎日のように朝から晩まで小狼につきっきりで剣を教えているため、一緒に過ごせる時間がほとんどない。


でも、だからと言ってファイは黒鋼が小狼につきっきりなことが気にくわない訳ではない。小狼には姫や彼自身のためにも頑張ってほしいと思っているし、心の底から応援している。

でも、それでもやはり黒鋼と離れている時間が長いというのはファイにとって辛いことだった。






「寂しいよ―…黒様ぁ…。」

頭上をひらひらと舞う花びらは、美しくもどこか切なげにファイの金色の髪へと落ちていく。





「悪かったな、相手してやれなくて。」


どこからともなく聞こえてきたその声に、ファイは閉じていた目をぱっと開いた。


そこには、ズボンのポケットに両手を突っ込んでファイの顔を上から覗き込むように立っている愛しい恋人の姿があった。



「黒様…ッ!!」



「ぅおッ!?」



ファイが仰向けに寝たままの状態で抱きついたせいで、抱きつかれた黒鋼はバランスを崩し、ファイの横へドタン!と大きな音をたてて倒れ込んだ。
「…ッ…あっぶねーだろーが!!」


「えへへーごめーん♪」

そう言ってファイはいつものように、へにゃっと笑った。

「ッたく…てめぇー謝る気ねーだろ?」


そんなことないよ〜とこれまた気の抜けたような返事が返ってくる。
黒鋼は今さら起き上がるのも面倒なので横になったまま空を眺めることにした。

見上げた空はどこまでも広く、隣で横になっている男の目と同じ優しい青色をしていた。



「今日は…剣の練習は…いいの?」
先ほどまでのへらっとした態度とは打って変わって不安げな表情だ。



「ん?ぁあ…。たまには体を休ませることも必要だろう。」


「そーだよねー。疲れちゃうもん。」


「それに……」


「それに??」


「…お お前と離れっぱなしは…俺だって辛い…//」

自分で言っておきながら恥ずかしくなったのか黒鋼は顔を林檎のように真っ赤に染めた。


「わぁ〜黒様ってば可愛すぎ〜〜♪」


「狽ネッ!んなわけあるか!気持ちわりぃー。」


「ほらほら〜照れないの〜。」



「照れてねぇッ!!ってか指で突っつくな!」


「突っついちゃうも〜〜ん♪ほっぺたぷにぷに〜。」


「だ〜か〜ら〜い・い・加・減・に・しろ!!」


「む〜。わかったよー。」


納得いかないようでまだ横で何かぶつぶつと言っているが、黒鋼は取りあえずファイを大人しくさせることに成功した。


それからしばらくの間二人は春の空気に酔いしれた。

ふと黒鋼がふわふわと風に流されていく丸い雲を白饅頭みたいだ、なんて考えていると、すぐ横にいたファイがもぞもぞと動き出し更にぴったりと寄り添ってきた。
そしてその白くて細い両腕を黒鋼の逞しい腕へと絡ませる。


「んー…。黒りんの匂い好き〜」
と言いながら、腕にすりすりと頬をすりよせてくる姿はまるで飼い主に甘える猫のようだ。

「匂いって……」


「俺ね、黒ぽんの匂いかぐとなんだか落ち着くんだよね〜♪」
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