黒犬と白猫
□紫陽花の詩
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「うわ〜シャワーみたい♪」
外はファイの言う通り物凄い雨。
黒鋼は、ぱしゃぱしゃと地面に当たって跳ね返り、ズボンの裾を濡らす雨に軽く舌打ちをして歩き出す。
水溜まりに映る自分に向かって手を振っていたファイは待って〜と慌てて黒鋼のもとへ駆けていく。
「黒様と散歩なんて久しぶり〜♪」
ファイは黒鋼に追いつき並んで歩きだす。
「…そうだな。」
「雨の日に散歩なんて滅多にしないもんね〜。」
「…そうだな。」
「相合い傘って、恋人って感じがして良くない?」
「…そうだな。」
「…そうだな。」
「ねぇ黒たん相合い傘しよ?」
「…そうだな…ってオイ!んなことするか!」
「ぷぅ〜黒様のケチ〜。」
ファイ黒鋼に向かって舌を出すと、足下の小石をコツンと蹴り飛ばした。
その後しばらく膨れっ面を決め込んでいたファイだったが、色とりどりの紫陽花が咲く大通りに出る頃にはそんなことすっかり忘れ去っていた。
「綺麗だねー紫陽花!オレこの薄い色のが好き♪あっ、でもこっちの青いのもいいなぁ〜。」
次から次へと指をさしては綺麗だの可愛いだのと連呼するファイの顔からは笑顔が溢れ、黒鋼もつられて微笑んでいた。
「あっ、黒ぽんが笑った♪」
黒鋼はファイに言われて初めて自分が笑みを浮かべていたことに気づき、慌てて傘で赤くなった顔を隠した。
「黒りん照れてる〜可愛い〜♪」
「Σう、うるせぇ!照れてなんかいねぇ!」
「真っ赤な黒様〜♪」
「いい加減にしやがれ…って!?」
黒鋼がファイに殴りかかろうと腕を振り上げた途端、ファイは黒鋼の脇をひょいっとすり抜けて走って行ってしまった。
「Σお、おい!」
くるっと振り向くと、少し先の電柱へ向かって走るファイの姿。
電柱の側で突然しゃがみこんだかと思うと、何やらゴソゴソとやっている。
何してんだ?と怪訝そうに見ていると、ファイはぱっと立ち上がりこちらへ駆け戻ってくる。
黒鋼は傘を持たずに戻って来たファイの腕を掴むと自分の傘の中へ引き入れた。
「おい、なんで傘あんな所に…」
「だって、あそこに小さな猫が二匹いて雨でずぶ濡れで…寒そうだったから…。」
「……。」
黒鋼は雨に濡れて顔に張りついたファイの髪をそっとかきあげると、そのまま額にちゅっと口付けた。
「…黒様?」
黙ったままの黒鋼の顔を不安げに見上げるファイ。
「…お前こそずぶ濡れじゃねぇか。ったく、風邪引いてもしらねぇからな。」
黒鋼は呆れたような顔をしながらその腕でファイの肩を力強く抱き寄せる。
「そろそろ帰るか。」
「うん。」