novel
□虚妄の空
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「ヒバリ、さん」
震える声を絞りだして、なんとか名前を呼んだ
……このときの俺の声は、すごく情けないものだったと思う
「……僕は赤ん坊と待ち合わせしてたはずだけど」
くるり、と振り向いたヒバリさんは全身雨に打たれてずぶ濡れになっていた
ここは、学校の屋上
俺が屋上の入り口で佇んだままでいると、ヒバリさんは重い腰を上げた
「いいや…君でも」
「す、すみません…」
「……別に」
ヒバリさんは覚束ない足取りで俺の目前まで来ると、不意に俺の肩に顔を預けた
「あ、の」
「……黙っててくれない」
「はい…」
ヒバリさんの身体は、まるで氷のように冷たく冷えきっていた
肩に埋められた黒髪からは雫が伝い、俺の身体を濡らす
……こんなに頼りなさげなヒバリさんを見るのは初めてだ
いつものヒバリさんは強くて、俺なんかの手が届くような存在じゃないのに
どうしてだろう
今は、こんなにもその背中が小さく見える
ヒバリさんの身体が小刻みに震えていたので、そっと背中に手を回した
そうすると、改めてヒバリさんの細さを認識する
ヒバリさんは俺よりずっと背が高いのに、むしろ体重は俺より軽そうだ