novel
□彼岸花
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連続的に刻まれる、秒針の音
しん、と静まり返った個室では、普段意識しないような些細な音まで耳が拾ってしまう
「ディーノ」
僕の目の前、広いベッドに横たわる彼の名前を呼んだ
「………」
返事は、もちろん返ってこない
期待したわけじゃない
なんとなく、ただ名前を呼んでみたかった
だらん、と力なく放り出された彼の腕を取り、頬に押しつける
――暖かい
「まだ、信じられないよ」
手を頬からゆっくりと放し彼の、少し癖のある金髪にそっと指を通した
「あなたが、」
死んだこと
「まだ、こんなに暖かいのにね」
彼の心臓はまだ動いてる
それでも、彼が死んでいると認めざるを得ないのは、彼が所謂脳死状態だから
例え心臓が動いていたとしても、意識が戻ることは決してない
それって、なんてなんて
「……神様は、残酷だね」
今の言葉が、ディーノを卑下したものか、それとも自分に言い聞かせたものだったのかは、もうわからない
――ああ、頭がくらくらする
ぐらつく思考をなんとか保ち、彼の枕元に置いてあった紙袋に手を伸ばした
中から出てきたのは、小さなナイフ
……僕はずっと、あなたに頼まれていたことがあった
あなたのその頼み事を、僕は一度だって本気にしたことはなかったけど
「ナイフなんて……使い慣れてないから、きっと下手だよ」
ナイフを握り直し、僕は彼の心臓目がけてそれを振り下ろした