novel

□彼岸花
1ページ/3ページ








連続的に刻まれる、秒針の音



しん、と静まり返った個室では、普段意識しないような些細な音まで耳が拾ってしまう




「ディーノ」




僕の目の前、広いベッドに横たわる彼の名前を呼んだ




「………」




返事は、もちろん返ってこない



期待したわけじゃない



なんとなく、ただ名前を呼んでみたかった



だらん、と力なく放り出された彼の腕を取り、頬に押しつける




――暖かい




「まだ、信じられないよ」




手を頬からゆっくりと放し彼の、少し癖のある金髪にそっと指を通した




「あなたが、」




死んだこと




「まだ、こんなに暖かいのにね」




彼の心臓はまだ動いてる



それでも、彼が死んでいると認めざるを得ないのは、彼が所謂脳死状態だから



例え心臓が動いていたとしても、意識が戻ることは決してない




それって、なんてなんて




「……神様は、残酷だね」




今の言葉が、ディーノを卑下したものか、それとも自分に言い聞かせたものだったのかは、もうわからない




――ああ、頭がくらくらする




ぐらつく思考をなんとか保ち、彼の枕元に置いてあった紙袋に手を伸ばした



中から出てきたのは、小さなナイフ




……僕はずっと、あなたに頼まれていたことがあった




あなたのその頼み事を、僕は一度だって本気にしたことはなかったけど




「ナイフなんて……使い慣れてないから、きっと下手だよ」




ナイフを握り直し、僕は彼の心臓目がけてそれを振り下ろした







次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ