主
□愛の言葉
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「ん?あれジュンコじゃないか?」
昼食を終え食堂からの移動中に、滝夜叉丸の隣を歩いていた三木ヱ門が近くの草むらを指差した。
見てみれば成る程、あの毒々しい赤が草むらの中に隠れ見えている。いつもの自主的な散歩だろう。
「あらら〜、今頃伊賀崎くん泣きながら探してるんじゃない?」
「でしょうね」
タカ丸が言い、喜八郎がうなずく。
しかし三人とも動こうとはせず、滝夜叉丸を見ただけだった。
「わかった、わかった、私が行ってくる」
三人の視線に溜め息をつき、仕方がないというポーズをとって地面に降りる。
喜八郎と三木ヱ門は当然と言わんばかりにひらりと手を振って、タカ丸も「いってらっしゃい」と送り出した。
「私はいつからジュンコ係になったんだ?」
ぶつぶつと言いながら草むらの中を悠々と散歩しているジュンコに腕を差し出した。
「帰るぞ」
一言言うと、言葉がわかるわけでもないだろうに大人しく腕に絡みついてくるその蛇に、滝夜叉丸はもう一つ溜め息をついた。
ジュンコの飼い主たる伊賀崎孫兵と滝夜叉丸が付き合うようになったのが少し前、仲間達にそれを伝えたのが最近、脱走したジュンコがかならず滝夜叉丸の前に現れるようになったのがつい最近だった。
多々ジュンコを腕や首に巻きつかせ学園を歩く滝夜叉丸は少なからず噂になり、今や滝夜叉丸と孫兵が恋仲だということは学園中が知っている。
孫兵がジュンコを探してたぞ、と報告されるのは当たり前だし、ジュンコを見つけると皆が皆して滝夜叉丸に渡してくる。
こういうのは普通秘めることではないか?
付き合っていることを隠したいわけではないが、こうも公けになっていることに頭痛がした。
知れ渡ってしまったのは明らかにジュンコのせいだった。
四年生と三年生は年が近い分他の学年よりも接点は多い。しかしやはり同学年と比べればどうしたって逢える頻度は少なかった。
授業だ実習だとお互いが忙しくなかなか逢えないでいると、ジュンコは決まって脱走した。
そして滝夜叉丸の前に姿を現すのだ。
「……どこまでご主人様思いの蛇なんだ、お前は」
腕を顔の前に持ってくれば真っ赤な蛇はするりするりと移動して、滝夜叉丸の正面に顔をだす。
そしてずいっと身を乗り出して、滝夜叉丸の唇に頭突きしてきた。
――頭突き、というか……。
「蛇と接吻してしまった……」
思わずがっくりと項垂れる。
項垂れる滝夜叉丸に気にもせず、ジュンコはするりするりと体の上を移動して、首にくるんと巻きついた。
いつも孫兵にそうやって持たれているし、蛇的に楽な位置なのかもしれない。