主
□そうして彼は「わん」と啼いた 3
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動きに合わせて揺れる髪が、ゆらゆらと八左ヱ門を誘う。
触り心地のよさそうなその髪にじゃれつきたいなと思うが、相手は真剣に本を探しているのだ。邪魔してはいけない。
いけないとは思うのだが……。
でも、『めっ!』と言って怒られるのもいいなぁ。
困った顔で『まったく……』と呆れられるのも、それはそれで捨てがたい。
一番は、待てをちゃんとできたことに『いいこですね』と褒めて欲しいのだけど……。
「………」
まぁ、ようはかまって欲しいだけだったりする。
メモを片手に、先ほどから本棚を眺めている滝夜叉丸の背中を、八左ヱ門は床に座り込んで眺めていた。
幸い今は授業中なので、図書室の黙す番人はいない。多少の無作法を咎められる心配はなかった。
八左ヱ門のクラスは担任が出張の為一日自習で、滝夜叉丸のクラスは前の授業が長引いた為、ずれ込んで今が休み時間だ。
短い休み時間に鍵をわざわざ借りてまで図書室に来たのは、調べたいことがあるからだと言う。
授業中にふらりと歩いている姿を見かけそのまま後をついてきた八左ヱ門に、滝夜叉丸は嫌な顔もせずに教えてくれた。
その滝夜叉丸はときどきメモを見ては本棚を睨みつけるようにしている。
「なんの本を探してんるんだ?」
図書室に入ったばかりの時に一緒に探すと申し出たが、メモもあるし大丈夫だと断られた。
しかし時間を気にしてか滝夜叉丸がぴりぴりしてきたことに気づき、我慢が出来なくなって声をかける。
「……これです」
一度断ったのでバツが悪いのか、メモを差し出す滝夜叉丸の声は小さかった。
こっちとしては頼ってもらいたのだ、そんなこと気にしないのに。
頼って?若干違うか、役に立ちたい、だ。
そんな事を思いつつ、立ち上がってメモを見た。
見て、頬を引き攣らせてしまった。
「これ……孫兵の愛読書だ」
「伊賀崎の?」
こんなことなら、もっと早くメモを見せてもらえばよかった。
そうしたら無駄な時間を使わせずにすんだのに。
「そう。この本な、生物が持つ毒について目茶苦茶詳しく載ってるんだよ」
「ええ、先生にもそう勧められました」
「だから孫兵お気に入りでさ、貸し出し期限がきたら一旦返してまたすぐ借りるの繰り返し繰り返し……」
「それでは、貸し出しの決まりの意味がなくなってしまうのでは……」