□そうして彼は「わん」と啼いた 4
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「気持ち悪いんだけど……」

ぼそりと呟かれた言葉に、八左ヱ門は弛みまくった顔のまま声の方を向いた。

「どうした三郎。気持ち悪いって、医務室行った方がいいんじゃないか?」

「気持ち悪いのは八、お前だよ」

げんなりとしたような三郎に、八左ヱ門は首をかしげる。

「?オレは絶好調だけど……?」

「だろうな……」

「???」

全部は言わず大きな溜め息をついて、三郎は近くの雷蔵の肩に顔を突っ伏した。

「ど〜やったら一日中あの顔でいられるんだ?不気味でしょうがないんだけど……」

「まぁまぁ、いいことがあったんでしょう。そんなこと言わない」

よしよしと三郎の頭を撫でて、雷蔵は苦笑したまま八左ヱ門を見た。

「何かいいことあったの?って三郎は言いたいんだよ」

「聞きたくもないけどな」

ペシッと雷蔵が三郎の頭を叩く。

音からしてそんなに痛くはなかっただろうに、三郎は盛大に顔をしかめた。

「だって、あの顔だぞ!絶対惚気話しに決まってるじゃないか!友人の惚気程寒いものがこの世にあるか!」

ベシッ――今度は少し痛そうな音がした。

「で?最近ずっと機嫌いいけど、何があったの?」

黙り込んだ三郎に目もくれず、雷蔵は朗らかな笑みを浮かべて小首をかしげた。

それに若干の薄ら寒さを感じつつ、それでも弛んだ顔を抑えられないまま大きくうなずく。

「勉強を教えさせてもらえたんだ」

「は?」
「え?」

簡潔に言えば、双忍と言われる二人はまったく同じように目を点にした。

「ん?だから、勉強をな、教えさせてもらえたんだ」

「勉強を教えてあげた、じゃないのか?」

「それとも、勉強を教えてもらった……とか?」

「うんにゃ、教えさせてもらえた」

「「「………」」」

ん〜?と三人が同時に首をかしげる。

何言ってるんだ?と双忍が、何でわからないんだ?と八左ヱ門が。

「……言葉、おかしくないか?」

「そうか?こっちが教えさせてってお願いしたんだから、合ってるんじゃないか?」

その言葉に、三郎と雷蔵は顔を見合わせてから八左ヱ門に向き合う。三郎は呆れ果てたような、雷蔵は少し困ったような笑みを浮かべ、違う表情なのに不思議そうであるのは一緒だった。
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