主
□そうして月は艶やかに微笑んだ
1ページ/4ページ
「かと言ってほっとく訳にもいかないからな」
「ちょっと話を聞かせてくれるかな?」
授業が終わり、委員会の活動もないので鍛錬に精を出そうと人気のないところを探していると、双子のように同じ顔をした五年の二人に声をかけられた。
「不破先輩に鉢屋先輩」
険しいとまではいかないといえど穏やかからは程遠い双忍の表情に、滝夜叉丸は困惑して小さく首をかしげる。
「話ですか?」
「なぁに簡単な事さ。八の事だ」
「竹谷先輩?」
「単刀直入に聞くけどね、平は八の事どう思ってるの?」
「……」
ああ、と思い至る。
あの夜から、滝夜叉丸に対する八左ヱ門の態度が豹変した。
それは当たり前だが滝夜叉丸も気づいており、そして、この二人が気づかないはずがなかった。
いつも穏やかな微笑か困ったような苦笑を浮かべる雷蔵も、いつも人を食ったような笑みを浮かべる三郎も常のような笑みはなくい。
それは、それだけ八左ヱ門の事を心配しているからだろう。
答えを返す前に、一つ、滝夜叉丸は気になることがあった。
「……先輩方は竹谷先輩から何か言われましたか?」
「ああ、聞いたとも。あいつなんて言ったと思う?ご主人様を見つけたとさ。それはもう嬉しそうな顔で!」
三郎が大げさに両の手を振り仰ぐ。
茶化しているようにも見えるが、滝夜叉丸の真意を探ろうとするその瞳は酷く冷たかった。
「それはそれはご執心だったぞ。見ていて気持ち悪かった!」
「そのくらい、八は本気だったんだけど……滝夜叉丸は気づいていた?それとも」「遊びの一環だとでも思ってたのか?それとも」「満更でも」「なかった?八は本気で」「平に惚れているのに」「ご主人様気取りで」「八を惑わせて」「楽しかったか?」
八左ヱ門を心配して、そして、その八左ヱ門の行動を甘んじて受けている滝夜叉丸の真意を暴く為。
同じ顔で、同じ声で、交互に紡がれる言葉に、まるで幻覚でも見せられているような錯覚に陥りそうになる。