□ころりと月が落ちてきた
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学園中を走り回り、八左ヱ門は今、己の主人たる滝夜叉丸を探していた。

学園長のお使いで学園を出たのがちょうど今日と同じ向きの弓張り月の夜で、それを考えるとずいぶんと長いこと学園を留守にしていたと思う。

そのお使いの間ずっと考えていたのは滝夜叉丸と、同級で友人でもある双忍のことだった。

学園長に報告してその後に逢った二人を見る限りでは、不穏な雰囲気は感じなかった。

それどころか、得も知れぬ妙な寛容さを示したくらいだ。

『この前はごめんね〜、ちょっと勘繰っちゃって。僕らもう何も言わないから気にしなくていいよ』

『首を突っ込んで碌な事にならないってわかったからな。勝手にしてくれ。そしてお前のご主人様に俺らを係わらせないでくれ』

『なんで?すっごく綺麗だったじゃない。八が心酔するのわかっちゃったよ〜』

『どこが!滅茶苦茶恐かったっての!』

どういうことか?何があったのか?それを聞こうとしても双忍は二人でぎゃいのぎゃいの騒ぐばかりで答えはもらえなかった。

ただ、何かはあったのだろう。
たまたま顔を合わせたのか、双忍が滝夜叉丸の元に訪れたのか、それはわからないが、何かしらの言葉を交わしたのだと思う。

その結果双忍の意見が変わったのだとしても、お使いを頼まれる直前にしていた会話……否、雰囲気が雰囲気なだけにざわざわとした不安は拭いきれなかった。

それに、学園長に急き立てられ慌てて出かけたから、お使いに行くことを滝夜叉丸に報告できなかった。

勝手にどこかに出かけるなどと、飼い犬失格の所業に滝夜叉丸は怒っているかもしれない。

いや、怒っているならばそれでもいい。それだけのことをしたのだ。叱られても否はない。

しかし、主と忠犬という関係が終わっていたとしたら?

どうして滝夜叉丸が八左ヱ門に付き合ってくれていたのかわかっていない。冗談だと、変な遊びだと思っているだけかもしれない。

そして、八左ヱ門が報告をしなかったことにより、やはり冗談だったのだと、遊びだったのだと認識し、そしてその遊びが終わったのだと思っているだけだったとしたら……。

叱っても貰えない、褒めても貰えない。

今まで通り、先輩と後輩。

学年も違えば委員会も違う、性格から特技からなにからなにまで違う自分達は、先輩と後輩という関係だってあまりに希薄だ。

擦れ違っても当たり障りのない笑顔で挨拶をされるだけ。八左ヱ門がそれっぽい行動をとっても、困った笑顔で軽くいなされるだけ。

……そんな関係に、耐えられるはずがない!
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