即席ギャング

□無職透明
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 篠山賢治 T

 最後に働いたのはいつだったか。
 駅前のタクシー乗り場、そこから少し外れた位置にあるベンチに座りながら、そんなことを考えていた。
 いつだったか思い出すまでも無かったではないか、と自分に突っ込んでしまう。
 今が四月二日だから丁度半年前になるのか。私がリストラされたのは。
 
   ○

 その日もいつものように、住宅地の中にポツンと立つ住み慣れた廃墟寸前のアパートを出た。
 自転車を飛ばし、工場へ向かった。
 自分が住む地区から少し離れた場所にある住宅地の中にそれはある。
 近所からは、「うるさい!」「早く潰れろ」「腐れ工場!」などと罵られていたが、社長はいつも微笑んでいた。微笑んで、こう言うのだ。「君達の文句は正論である。しかしながら、君達の文句を一々聞いていては我々は路頭に迷うこととなる」
 いつものように出社し、スーツから作業着に着替えて工場に入る。
 すでに同僚の木高は来ていた。
 「やあ」と油が着いた顔をこちらへ向けた。
 「また泊まりでやってたのか?」木高は時々、泊まりで機械の整備をしたりすることがあった。
 「仕方ないさ。秋山さんが大手に引き抜かれたから、他に機械を整備をできる人間がいないんだし」
 「寝てないのか?」
 「仮眠は取ったよ。三時間」木高がサラリと答えたあとで、「そうそう、社長が呼んでたよ」と思い出したように言った。
 私はすぐに、社長のいる場所に向かった。
 工場の裏手に小さな小屋があり、そこに社長や、事務の人間がいる。
 小屋の戸を一応ノックし、返事は聞かずに入る。
 社長は一番奥の机に向かって書類と睨めっこをしていた。
 もうすぐ六十になるであろう社長は、年齢より十年くらい若く見えた。皺がよった眉間は老いというよりは厳しさを感じさせ、その目はギラギラと光っている。


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