七日間の奇跡

□さようなら(中編)
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12月22日

夢の世界からは覚めない。覚めない夢の中で、私は夢を見た。
杏奈と私が歩いていて、杏奈と私は何かを話してる。
だけど、杏奈の言葉が聞こえない。
こんなに近いのに分からない。
黒猫が視界を横切る。
猫は言う。
「現実を見ろ」
覚めない夢の夢から覚めた。

………

快晴。
学校はもう休みだ。休みなのだから遊んでいいのだ!
よし!杏奈と遊ぼう!
私はそう思いたち、携帯電話を掴んだ。と、同時に、携帯がなる。
電話だった。喜信からだ。
「今から会えないかな?」
喜信の声は、悲しげだった。何がそんなに悲しいのだろうか。
「うん。いいよ!どうせ暇だし!」
私はそう返答した。
杏奈とはまた遊べる。
今は悲しげな喜信の方が優先だ。そう思った。

………

待ち合わせ場所には、喜信だけでなく、裕もいた。
二人とも、悲しげな表情を浮かべている。
「どうしたの?二人とも悲しそうだけど」
私はストレートに聞いてみた。
二人は、顔を見あせて、答えようとしない。
「ねぇ……変だよ。どうしたの?」
裕が、私を見据えると、ゆっくりと言った。
「声、震えてるぞ」
「なにが?」
「遊衣ちゃん……ダメなんだよ」
「ダメって?」頭痛がしてくる。
「杏奈とはもう会えない」
裕の言葉に首を傾げる。
「なんのこと?」
「ダメなんだ。杏奈は……」
裕は続きを言おうとしない。
「遊衣ちゃん……」
私は、覚めない夢をまだ見ていたらしい。杏奈がいない世界の夢。
悪夢。
「なにが?なんのこと?良く分からないよ、二人とも」
「おかしいよ二人とも、どうしたの?ねぇ」
なんで、なんで涙が出るの?変だよ。
「ねぇ、今日二人とも変だよ。ほら、四人で遊ぼうよ!杏奈呼んでさ、四人で遊ぼうよ!」
世界に、鋭い音が響いた。
空気を裂く音、人の手のひらが頬を叩く音。
一瞬の出来事。
喜信の右手は、私の左頬を叩いてた。
「いつまで逃げるんだよ!!!」
私は、叩かれたことより、怒鳴られたことより、もっと悲しいことに気付いた。
夢じゃなかった。
その事実だけが、私の胸を締め付けた。
 

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