妖怪居候物語〜仮初めの刻
□序章
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とある山に囲まれた小さな村の一角にあるこれまた小さな宿屋
そこは美しく気立ての良い若い娘と優しい父の二人が切磋琢磨しながら営んでいた
彼女はいつも笑みを絶やさず村でも評判で、二人は貧しいながらも幸せな暮らしであった
ある日、優しかった父親が病気で亡くなった
村の誰もが悲しみ、彼女を気に掛けたが、彼女は気長に振る舞い笑顔を絶やさなかった
宿屋はもう無理では無いか…
誰かがそう囁いた
そして今も尚、その一角には宿屋がぽつりと静かに建っている
辺りに人影は無い
娘の姿は稀に見掛けるのだが、いつからであろう
あの宿屋にあまり人が行かなくなったのは…
不思議な事に、人気の無い宿屋から密かに笑い声が聞こえてくるのである
通りすがりの旅人がこの言葉を残したのは、いつの事であっただろうか
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