奉還師

□ACT13
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「紗稀ーー!!」



伸ばした手は空を切った。



気付けば耳に小川の流れる音。
美子さんの鼻歌が遠くで聞こえる。
多分キャンプ場は直ぐ其処に在る。

でも俺の視界にいるのは二人だけ。
有利と健だけ。



地面が割れた。
三つに裂けたのを確かに感じた。



「紗稀ちゃんは!?紗稀ちゃんは何処行ったんだ!?」
「判んねえ。」
「まさかあの結界の中に閉じ込められてるんじゃ・・・。」



それにも判らないと首を振る。
結界は紗稀が媒体を還した事によって崩れたとは思う。
だからあのねじ曲げられた空間からそれぞれ元の世界に戻るのは頷けるが・・・。



「彼女もまた自分の世界に帰ったと思うよ。」
「本当か!?」
「・・・・・・なら、もう会えないのか?」
「有利・・・。」



紗稀が自分の世界に帰れたのならそれは嬉しい。
でもそれは同時に俺達との別離を示している。



また会えるのか。



・・・いや、このままの方がいいのかもしれない。

奉還師。

それが何なのか俺にはよく判らない。
でもこれから起こる事の為にサクリアを託されたのだとすれば。
このままの方が彼女はきっと安全な筈だ。



「それは渋谷次第かな?」
「どう云う意味だよ・・・。」
「とにかく一度眞魔国に戻るべきじゃないかな?ウェラー卿達の事も気になるだろ?」



何で其処で俺の顔を見るのかな、健君。
別に俺はそこまでコンラッドの事心配してた訳じゃないからな?



「戻るって云ったって・・・・・・。」



どうするんだよ。

そんな言葉、健の前では無意味だった。



「あ、誂えたように川が・・・。」



ぽんと背中を押されて俺も有利も抗いようがなかった。
また濡れるのか、と溜め息を零しただけ。

次の瞬間には森ではなくすっかり見慣れた噴水の中にいた。



「アキラ〜〜!!」
「うっ・・・。」



すぐさま駆け寄って来たのはコンラッド。
確認しなくても判る、超絶元気。



「無事だったか。」
「・・・おう。」



無事は無事だけどそのうち鞭打ちかなんかになりそうですよ、俺は。



「一人足りないようだが?」
「って事はこっちには来てないんだな紗稀ちゃん。」
「サキ・・・・・・?居ないのか?」



やっぱりこっちにも来ていないのか。
怪訝そうなグウェンダルに、俺達も眉間に皺を寄せた。



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