お題

□やんちゃ坊主
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四面楚歌番外編です。






満月の夜、俺は狼に出会った。
ただ月を静かに見つめ、一人佇む孤独な狼と。
月と同じ色の髪を靡かせ、其奴は俺を射抜いた。



「・・・何か用?」



何処までも冷めた瞳。
声が喉に張り付いたように言葉が出て来ない。
俺は初めて萎縮すると云う事を実感した。

息をする事も、足を動かす事も、視線を逸らす事も許さない瞳。

でも一方でその瞳に魅せられている事も判っていた。



「もう一度聞く、何か用か?」



去れ。
その瞳は云っていた。
関わるな。
そう全身で訴えていた。

狼は一歩一歩、此方に近付いて来る。
俺はその場に縫いつけられたように動けなかった。



「・・・お前だろ?最近この辺荒らし回ってる奴は?」



やっとの事で絞り出した言葉は意外にも何時もの自分だった。



「別に。突っかかってくるから相手してやったまでだ。」



カン、と渇いた音が背後で鳴った。
段々それは断続的に、近付いて来る。



「友達?」
「いや?」



誰かと組むなんて下らねぇ。
ずっと一人だったし、これからもそれでいいと思っていた。



「じゃ、半分。」



下らない。
世の中を見下げ、否定する瞳。
同じだと思った自分と。



「指図すんじゃねーよ。」



俺は俺のやりたいようにやる。



そう云うと狼は月のように丸い目をした後、闇に紛れてその口角を上げだのだった。





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