存在
□第一話
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私が今いるのはファブレ公爵邸の客室。
ファブレ公爵とは私がお仕えするナタリア様の婚約者であるルーク様の父君のことです。
ナタリア様、というのはこの国、キムラスカランバルディア王国の王女様。
数ヶ月前、ローレライ教団の導師、イオン様失踪の報を受け、主席総長であるヴァン謡将が呼び戻されようとしていた時でした。
あ、ローレライ教団というのは、キムラスカ王国と、敵国マルクト帝国を仲裁する役目をして下さっている組織、といいますか。
預言(スコア)、を与えて下さる方々なのです。
預言(スコア)とは文字通り、『よげん』のこと。
始祖ユリア様が残された、偉大なるものなのです。
そのローレライ教団の中でも最高権力を誇られるのが、今回問題の導師イオン様。
主席総長という地位は導師直轄の部下、という意味で取ってもらえれば構いません。
とにかく、ヴァン謡将がローレライ教団の拠点地ダアトへと戻られようとしていたとき、事件は起こりました。
謎の歌を操る少女が、ファブレ邸に侵入したのです。
それだけではなく、その突然の来訪者とルーク様の第七音素(セブンスフォニム)が反応し合い、『超振動』が起こってしまったのです。
超振動は音素と音素の波動の振動で起こってしまう超現象。
下手をすれば、物質を消滅させることも可能なほどの未知数な力を持っています。
その超振動が起こったせいで、ルーク様と侵入者、ヴァン謡将の妹君はマルクト領へと飛ばされてしまったのです。
それを聞いた我々は、すぐにルーク様を探そうとしました。
当初、ファブレ家専属の白光騎士団で捜索隊が結成されましたが、大人数ではかえって身動きが取れないとの理由で、ヴァン謡将とルーク様の使用人、ガイ殿だけが捜索に出ることになりました。
本当は私も向かいたかったのですが。
ルーク様の行方がわからなくなったと聞かされたルーク様の母君、シュザンヌ様がお倒れになってしまわれたので、診察の為に残ったのです。
そして今、白光騎士団の方からルーク様が帰郷されたと聞き、ここでお待ちしているという訳です。
「ルークはまだですの?」
報告を受けてから落ち着きのないナタリア様。
さきほどからあっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
無理もない・・・。
ルーク様がいなくなったと聞いたときのナタリア様は、ものすごく動揺しておられた。
シュザンヌ様のように倒れる、とまではいかなかったものの。
青白い顔をしてらっしゃったのは確かだ。
そう・・・、まるで七年前のように・・・。
「大丈夫ですよナタリア様。ルーク様はちゃんと帰って来られたんですから。」
「・・・そうですわね。」
ルーク様は今から七年前も急に姿をくらまされた。
マルクトの手によって誘拐されたのである。
その時も捜索隊が組まれ、ルーク様を発見したまではよかったのですが・・・・・・。
客室のドアが開かれた。
「ルーク!」
開けた人物を目に留めるや否や、ナタリア様は駆け寄られた。
「げ・・・・・・。」
そこにおられたのはまぎれもないナタリア様が待ちこがれていた人物、ルーク様だった。
「まあ何ですの、その態度は!私がどんなに心配していたか。」
ルーク様のお姿を見て、ナタリア様はいつもの調子に戻られたよう。
さきほどまでのお姿はどこへやら。
「・・・・・・いや、まあ、ナタリア様・・・・・・。ルーク様は照れてるんですよ。」
そう言ったのはガイ殿。
ガイ殿に続いて後から四人、入って来られる。
ルーク様、ナタリア様、ガイ殿がじゃれ合いを続けていらっしゃったので、私は初めてお会いする人たちに近づいた。
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