奉還師

□ACT6
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彼女の部屋のドアを開ければ、其処にはベッドに突っ伏したアキラ。



「一人にしてくれって云ったよな?」



此方を見ずにそう云うアキラ。
俺だと判っているのか、それとも誰でも同じだと思っているのか。



「・・・嫌です。」
「出てけって云ってるのが判らないのか!?」



・・・珍しい、彼女がこれほど感情的になるなんて。
投げつけられた枕を受け止め、ベッドの端に腰かける。
今、冷静に判断できるのは紗稀のお陰。
翻弄されるだけの少女だと思っていたが如何やらそうではないらしい。
心の中で感謝しながら俺は目の前の事に集中した。



「嫌ですよ。こんな不安定な貴方を放ってはおけない。」
「放っておいてくれって俺が云ってるんだ!」



幾ら本心でなくとも胸が痛む。
でも本心じゃないと判っているからこそ、離れる訳にはいかない。
布団を頭から被ってしまった彼女に優しく語りかける。



「例え拒まれても俺は此処を離れませんよ。」



俺はそのまま布団ごとアキラを抱き締めた。
逃れようと暴れているみたいだが、俺には通用しない。
寧ろ逃がすまいと腕の力を強めるだけ。



「貴方は何時も大事な事を話してくれない。一人で溜め込み、背負い込む。相談出来ない程俺は信用が在りませんか?頼りになりませんか?」



判っている。
心配をかけたくないと云う彼女の気持ち。
他人を気遣う余り、自分を疎かにする優しさ。
でも俺から見たらその様の方がよっぽど『犠牲的』ですよ?



「俺だって一緒に悩む事も出来る、一緒に解決策を考える事も出来る。」



貴方は今一人ですか・・・?

暫く続いた沈黙。
大人しく彼女の言葉を待つ気では在ったが、些か不安になる。
顔が見えないのがそれに拍車をかけるのだろうか。
布団を少し捲るように手をかける。
すると・・・。



「・・・ひっく。」



こぼれたのは小さな鳴咽。
俺は思わず目を見開いた。
ゆっくり布団を剥ぎ取ると、其処には確かに泣いている彼女。
俺は正面から彼女を抱き締めた。



「アキラ・・・。」



僅かに震える肩が痛々しい。
すすり泣く音は俺の涙腺さえも刺激する。



「・・・ぃ。」
「・・・?」
「怖いよぉ・・・。」



俺の服にしがみついた彼女から出た本音。



「お願い、何処にも行かないで・・・、嫌いにならないで・・・。」
「アキラ、ゆっくりで構いません。最初から話して貰えますか?」



俺が貴方から離れるなど、嫌いになる訳などないのだから。



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