存在

□第二話
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私は十数名の兵士を引き連れ、バチカル港へと赴いた。
丁度、ヴァン謡将が船を降りようとしているところだった。



「これは何事だ?」



私たちの姿を目に留めるや否や、渋い声を上げるヴァン謡将。



「あなたならば察しがつくでしょう。」



一歩前に出て、ヴァン謡将と視線を交える。



「・・・・・・大人しく捕まった方がいいか。」
「そうしてくださると助かります。」



ヴァン謡将はやれやれ、と溜息をつく。



「神託の盾(オラクル)騎士団所属、ヴァン・グランツ。あなたを第三王位継承者、ルーク・フォン・ファブレ出奔の容疑で捕獲します。」



私の声を合図に、後ろに居た兵士達がヴァン謡将に縄をかけた。



━その夜。

私は薄暗い階段を下りる。
狭い空間のせいで、足音ばかりが響く。
辿り着いた先は罪人部屋。



「ご苦労さまです。」



見張りをしている兵士に労いの言葉をかける。



「シェンラ殿!!」
「お食事をお持ち致しました。」
「ありがとうございます!」



敬礼をしてから、皿を受け取る見張り役。
私はある鉄格子の前で足を止めた。



「お食事です。」
「・・・・・・シェンラか。」



ヴァン謡将はゆっくり顔をこちらへと向ける。



「すまないな。」



皿を受け取り、食事を始める。



「謝るのは私の方です。」



見張り役に聞こえない程度の声で私はヴァン謡将に話しかけた。



「お前が謝る必要はなかろう。陛下の命があったのだろう?」
「・・・・・・はい。申し訳ありません。」
「気にするな、むしろ好都合だ。」
「え?」
「いや、何でもない。」



一瞬ヴァン謡将の目が妖しく光った気がしたのは、気のせいだろうか。

私はこの時何故気に留めなかったのかと、後悔することになる。



「相変わらずシェンラの料理はうまいな。」



すっかり完食し終わったヴァン謡将。



「それは・・・・・・どうもありがとうございます。」



私は空になった皿を受け取った。



「それでは失礼します。」



そしてまたカツカツと音をたて、階段を上って行く。

・・・・・・ヴァン謡将が私の後ろ姿を見送りながら笑っているとも知らずに・・・・・・。



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