COCKTAIL-BAR
□だけど言わない
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――確か、以前にも…
(御剣…)
こんな想いを巡らせていた事があった。
僕が、弁護士を目指すキッカケとなった…大事な親友、御剣怜侍に。
でも、弁護士であった彼の父親は事件に巻き込まれ…帰らぬ人となり、まだ幼かった彼は転校という形で、僕から姿を消した。
――それから、幾年が経って。彼が、検事になったと…風の噂で聞く。
弁護士になれば、彼に会える…それが弁護士を目指した最初の理由だった。
(でも…)
御剣は、変わってしまっていた……。
僕の会いたかった彼は…
[有罪を勝ち取る為なら、手段を選ばない男]と、黒い噂の絶えない天才検事、御剣怜侍となっていた。
幼少の頃見た、あの、真っ直ぐな瞳は…もう過去の遺物と化して。
(それでも、僕は…)
幾つかの事件で、彼と闘った。そして彼自身に容疑がかかったあの時ですら…僕は、彼を…想っていた。
(余りにも似ているんだ……)
伝えたかった。気付いて貰いたかった。
僕は、こんなにも…貴方が好きな事を…。
でも…再び…。
彼は、僕から姿を消した。
…死を、選ぶと。
そう、書き残して。
「…はぁ。僕はバカだな…」
とどのつまり…成歩堂は同じ事を繰り返しているのだ。
想いを巡り廻らせては考え込み、そんな事をしている間に彼の人はまた、先へ先へと行ってしまうのだから。
しかし…今回は、少しばかり状況が複雑な訳で…。
ゴドーが御剣に、何か特別な想いがある事を感じていたからである。
だが、御剣は…今頃になって何故か自分に優しく…あの頃とはまるで真逆なのだ。
自分はゴドーの姿を追い掛け、そして……
(『貴方が、好きです』)
「あああ…全く!!!」
これではまるで…
「あ…まさか…これが」
ゴドーに、貴方を知りたいなどと伝えた時…帰り際に彼が言った、あの言葉。