SPIRITS-BAR
□Brake Down
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人生というこのゲーム
フェアだなんて
誰も言ってないぜ…?
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【BrakeDown】
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――成歩堂法律事務所
「ええ…あ、はい、分かりました…じゃあ後ほど…」
――カチャ…
突然掛かってきた電話の主は、用件の前に何時も『謎掛け』を問いてくる褐色の彼であった。
(珈琲、挽いておかなくちゃな…)
成歩堂は席を立ち、給湯室でミルに豆を入れながら…先程の会話を独り、反芻する。
――邪悪な魂は
虎に爪を与え、
バラモンはハトに
翼を与えた…――
(…何だろう…それ…)
ガリガリとミルが豆を粉へと変貌させてゆく。給湯室には挽いたばかりの闇の種から立ち上るアロマが、フワリと成歩堂の鼻をくすぐった。
(…多分、ゼニトラの話しだろうと思うんだけど…)
―『幽霊でも見たよォなツラしとるのォ…』
…あの残忍な光を湛える眼を思い出す度、背中に悪寒が走る。
しかし、成歩堂はもう、それに恐怖する事はなかった。
(あれだけ泣いたのは…何年ぶりだったかな…)
挽いた粉をフィルターに入れていると、隣のコンロから青白い炎に焼かれていたケトルが、ピィ…と小さく鳴き始める。
(でも…何故…?)
成歩堂が知り得るその情報は、殆どがマスメディアに頼るよるものであった。
しかし、射殺された「虎」の事など…世間では記憶にすら残らぬ事例。
それ以来、「虎」の名はマスメディアから消滅していた。
最近の話題は専ら【切り裂きジャック】一色に塗り潰されている……。
その話題の隙間に…つい先日の事件が、ほんの気持ち程度に掲載されていた。
下のテナントで『黒龍会』幹部二人が何者かにリンチされ、意識不明の重体。
あの時の物音の正体はこれだった。
…しかし重要なのは、それに関与していたと思われる、死んだ筈の「虎」の存在。
成歩堂は思う。
恐らく、これから聞くであろうその内容とは…それに関連したものになるだろう…と。
――ピィィィィ…
ケトルの悲鳴で思考の淵から現実へと引き戻される。
成歩堂は静かに湯を注ぎながら、ポタポタと落ちていく闇の涙をボンヤリと眺めていたのだった……。