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□嫉妬して、僕の妖精
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折角の休日だと言うのに、エドガーは愛娘のエレンと遊んでばかりで、リディアには目もくれないでいた。
まぁ、最初は久しぶりに父娘が仲良く過ごしているんだから良いわ〜と楽観的に考えていたリディアであったが……
昼食時も、ティータイムの際も、エドガーはエレンの傍を離れようとしなかったのだ。
「エレン、こっちへおいで」
「はぁ〜い!お父さま!!」
可愛らしく返事をするエレンの体を抱き上げ、エドガーは自分の膝に乗せ、
「エレンは可愛いね」
まるで妖精のようだ―――
などと、若い女性を口説き落とす文句まで述べ始める。
これにはさすがのリディアも苛立ちを感じ彼の元へ近づくと、
「エドガー……なんなのその態度!」
思いきり彼の態度を問い詰めてやった。
一方リディアのお怒り姿に、エドガーはエレンをそっと膝から降ろすと、
【エレン、ケリーのところへ行っておいで】
そう耳打ちし、その場を自分と妻の二人きりだけにした。
エレンが去ると、室内には静寂が訪れる。
リディアはエドガーが何故エレンを部屋から出したのかわからないまま、彼の二の言葉を待つ。
やがてエドガーが席を立ち、リディアの方へと歩んで来た。
「なっ、なに?」
ジリジリと詰められる距離感に、何となく後ずさりしてしまう。
二人はお互いの距離を保ちながら、一歩、また一歩と前進、後ずさりして行った。
しかし後ずさりしていたリディアのブーツの踵がソファーの端に引っかかり、そのままソファーへと倒れ込みそうになる。
「……っ、きゃあ!!」
「リディア!!危ない!!」
エドガーはリディアの手を引き、素早くリディアの後方に自らの体を滑り込ませた。
「……っ……」
リディアはゆっくりと閉じていた瞼を開いた。
「リディア、大丈夫?」
「エ、エドガー!!」
真下から聞こえる夫の声にリディアはびっくりして跳ね起きようとするが……
「……離さない」
グィと後方へ引き寄せられたのだ。
「きゃあっ!」
その衝撃でまたもや彼の胸板に背を押しつけることとなる。
「エドガー!」
何するのよと言い返したくなったが、エドガーの声が耳元で聞こえ、リディアは思わず目を閉じた。
「リディア……」
彼の声はリディアにとっては媚薬以上の代物であり、耳元で囁かれれば尚更効果抜群である。
名を呼ばれただけでリディアの頬はうっすら赤みが差し、心拍数も上昇していく。
「エドガー……お願い離して」
「離さないよ」
だって……とエドガーは言葉を続ける。
「リディア、きみは何か勘違いしていないかい?」
「……」
エドガーからの問いかけに、暫く黙っていたリディアであったが、ふぅと一息吐くとエドガーにこう告げた。
「エレンとばかり遊ばないで、あたしのことも……かまって……」
つい本音を漏らし、あっと口元を塞ごうとしたが、それよりもエドガーの手がリディアの口元に添えられた。
「リディア、まさかエレンに嫉妬?僕としてはきみに愛されてるって思えて幸せなんだけど……?」
――娘の前で口説き台詞を吐く父親はいません!!――
リディアは心の中でそう訴えた。
するとくるりと体を反転させられ、リディアはエドガーとソファーの上で向かい合わせの体勢になる。
エドガーは微笑んでおり、リディアはまた彼のペースに乗せられたと後悔した。
「エドガー……の意地悪!!」
「意地悪じゃなくて誠実な紳士だよ」
きみの前では違うけどと笑いながら話すエドガーにリディアはどうにかして離れてやろうと試みたが、エドガーはリディアを開放してくれそうにない。
それどころか……
「リディア、このまま二人っきりで……過ごそう」
指先で唇から鎖骨に触れてきたのだ。
リディアは頬を再び染めながら強く言い返した。
「エドガーなんて……大嫌い!!」
それでも結局二人の仲はあっという間に修復され、ラブラブ夫妻と周囲から呼ばれるのであった。
〜おしまい〜
エレン「あれ?お父さま遅いなぁ?お母さまも」
ケリー「エ、エレンさま!!ご両親が来られるまで私と遊びましょう」
エレン「ケリーお姉ちゃん!!うん、遊ぼう!!」
両親がなかなか来ないことを疑問に思ったエレンを、ケリーは必死で引き止めるのであった。
〜おしまいっ!〜