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□〜Hot Present〜
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閑な休日の午後。
リディアは自室の机に座り、送られてきた手紙に目を通していた。夜会や晩餐会への出席でリディアの日常はめまぐるしく過ぎ去り、やっとおとずれた僅かな休息にフェアリードクターの仕事をこなさなければならなかった。
「はぁ…疲れた。少し休憩しましょ」
リディアはトムキンスが<休憩にどうぞ>と運んでくれたミルクティーを口に運ぶ。
「うーん、おいしい」
窓から見える空は澄んでおり、今日も一日晴天であろう。
「いい天気ね〜」
のほほんとした口振りでミルクティーを飲み干し、コースターに置く。
するといきなりドアが開き、ティルが飛び込んできたのだ。
「お母さま!大変だよー!!」
「な、なに?どうしたの?」
息子の慌てようにリディアは何事かと近づく。
「あのね、お父さまがいなくなっちゃったんだ」
「エドガーが?」
「今日は一日ぼくと遊んでくれるっていってたんだけど……」
「一緒に遊ぶ約束をしていたのにエドガーってば、どこに行ったのかしら?ティル、お母さまが息子の約束を破るなんてひどいわって、お父さまに怒ってあげるからね」
「えっ!?あ、うん…」
母親の台詞にティルは少し焦っているようだった。







「まずは、エドガーが今どこにいるか探さないとね」
リディアはティルを連れ、伯爵邸の廊下を歩いていた。すると前方からレイヴンが歩いて来るのが見えた。
「ねえ、レイヴン。エドガーを見かけなかった?」
レイヴンはリディアに気づき顔を上げるが、何やら困った様子でこちらを見ている。
「リディアさん……」
(しっ!黙っとかないと)
ティルは母親に見えぬよう、レイヴンに合図する。
「い、いいえ。見かけておりません」
返事の仕方がたどたどしく、レイヴンが何か隠し事をしているのは明白であったが、リディアはそれ以上は問い詰めないことにした。
「レイヴン、もしエドガーを見かけたらあたしに言ってね。話さなきゃならないことがあるから」
「わかりました。エドガー様を見つけましたら、そう伝えます」
恭しく頭を下げ、レイヴンはリディアとティルの傍を通り過ぎて行った。リディアは再び夫を探そうと窓の外を眺めた。すると、メイド二人の姿が見えた。
「ハリエッドとケリーだわ。ねえ、二人とも聞きたいことがあるんだけど」
窓を開け、二人に声をかけるとケリーとハリエッドは快く返事を返してくれた。
「はいリディアさま、なんでございましょう?」
「あのね、エドガーを見かけなかった?」
「エドガーさまですか?朝は確かにティルさまと一緒に子ども部屋におられたのですが。そのあとは見ていません」
「そう、わかったわ。もし見かけたらあたしに報せてね」
「はい、わかりました」
深々と頭を下げる二人に手を振るとリディアはティルを連れ、再び夫の居場所を探す。
「……ねぇティル?朝は確かに一緒に子ども部屋にいたのよね?」
「うん。あのね…ぼくがトイレにいってる間にいなくなってたの……」
もし、ティルと入れ違いにトイレに行ったとしてもそう時間はかからないだろうし万が一、外に出たなら伯爵邸の誰かが気づくであろう。
推測した内容を整頓すべく、リディアはティルを抱き抱えひとまず部屋へ戻ることにした。











自室へ向かう途中、リディアは廊下にピンク色の紙が落ちているのに気がついた。
「…何かしら?」
ティルを降ろしリディアは紙を拾う。
紙には、

“ようこそ リディア”

と書かれていた。
そしてその紙が置かれた場所にある部屋……
「お母さま。もしかしてこの部屋にはいってってことかな?」
「…そうなのかしら?」
「そうだよきっと。あ、ぼくお母さまが部屋にはいった後、お父さまを見かけないか廊下でみてる。だからお母さま、室内の様子みてきてね」
「え、ええ。わかったわ」
リディアはティルの言う通り室内へと足を踏み入れる。
あまり使われない部屋なため、室内はカーテンが閉められたままで薄暗かった。
「エドガー……いるの?」
名前を呼びながら歩くと、いきなり背後から抱きしめられた。
「きゃあ!!」
「リディア」
「えっ…エドガー?」
「うん、僕だよ。びっくりした?」
振り返ると探し人のエドガーが立っており、にこやかに微笑んでいる。
「エドガー!!あなた今までどこにいたの?」
「ごめんねリディア。でも、どうしてもきみに気づかれないようにしたかったから」
「……気づかれ…ない?」
リディアを優しく引き寄せ、エドガーは室内を灯した。
辺りが急に明るくなり、リディアは目を細める。徐々に光りに慣れてくるとそこには、

「リディア、お誕生日おめでとう!!」

一面に彩られた誕生日パーティー会場となっていたのだ。
「う…そ、なにこれ…」
呆気にとられて言葉が出ないリディアのかわりに、ティルが説明してくれる。
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