本棚W

□白雪姫
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ある日の午後、リディアが自室で妖精博士の仕事をこなしていると、




エレン「おかあーさま!!入っていい?」


愛娘のエレンが部屋のドアからひょっこり顔を覗かせたのだ。



リディア「ん…いいわよ」




エレンは室内に入ると母親の元へ、赤く熟れた林檎を差し出した。

エレン「えへへ。おかあさま、どうぞっ♪♪」



リディア「まあ、美味しそう!エレン、後で一緒に食べましょ……」




エレン「だめっ!いまおかあさまが食べなきゃ!」



そのうえエレンは母親にその林檎を今<まるかじり>して食べてとせがむ。



リディア「エレン…一体どうしたの?」



困り果てたリディアはエレンの抱えている林檎を手に取って眺めてみた。



特に変わった様子もなく、美味しそうな林檎である。


リディア「……この林檎をまるかじりするとどうなるの?」



エレン「ケリーお姉ちゃんがお母さまにまるかじりしてもらってって。えへへ♪」


リディア「ケリーが?」



またもや侍女絡みの問題にリディアは首をかしげる。



《ケリーってば、一体何を……》



リディアが考えている間にもエレンは早く〜と母親に食べるよう急かす。



リディア「う〜ん…わかったわ。じゃあ頂きます」


侍女の行動に疑問を頂きつつ、リディアは林檎を一口かじった。



リディア「あっ!甘いわ。この林檎♪♪」



見た目と同じく味も美味しくて、さらに食べようと林檎にかぶりつく。


けれど、



エレン「あー這買_メぇ!お母さまはこの場で倒れてしまわないとぉ!!」



リディア「へ?倒れて…って、ちょっとエレン!?」


エレンがリディアを押し倒そうとしてきたのだ。



リディア「まっ…待って。エレン、どうしてお母さまが倒れなきゃいけないの?」


リディアは娘に状況の説明を申し出た。


エレンは母親を押し倒すことに夢中になっている。


ただ一言、


エレン「そういうシチュエーション!」


と、言い切ったのだ。


リディア「シチュエーション……」


リディアはエレンの言葉に気をとられ、足元のバランスを崩し床へと倒れてしまう。



リディア「きゃあ!」
エレン「わ〜い!これで早くお父さまを呼んでこなくっちゃ!」


エレンは母親が倒れたのを確認すると部屋を出て行った。


その後エレンに半ば引っ張られるようにして、エドガーがリディアの部屋を訪れた。


エドガー「リディア?入るよ」


室内に入ったエドガーは、もちろんリディアの体勢に首をかしげた。



エドガー「リディア、どうして床に寝ているんだい?」



リディア「ち、違うわ!寝ているんじゃなくてこれはエレンがあたしを……」



エレン「あー!ダメぇ〜!お母さましゃべっちゃ!!!」



二人の会話を遮るようにしてエレンは父親の元へ駆け寄る。



エレン「お父さま、あのね……」


エドガー「エレン?」


エレンは父親の耳元で何かを告げる。するとエドガーは至極嬉しそうに頷いた。



エドガー「わかった。じゃあエレン、やるよ!」



エレン「うん♪♪」



リディア「??」


リディアは二人の間で取り交わされた内容を知るよしもなく、とりあえず娘の言う通り黙って横たわっていた。
するとエドガーは、つかつかとリディアの方へ歩み出し、横たわるリディアの前までくると膝を折ってその場についた。



リディア「エドガー?」


エドガー「しっ。リディア、きみは今《眠り姫》なんだよ」


そっと人差し指でリディアの唇を封じ、ふふっと笑う。



(眠り姫?)


リディアは訳がわからず、ただ呆然と夫の仕草を眺めていた。



エドガー「可哀想なリディア姫。毒林檎を食べさせられて、眠りにつかされてしまったんだね。でも、もう大丈夫だよ。王子さまの目覚めのキスできみは永久の眠りから目覚めることができるんだ」



エドガーはそう言い切ると、唇を重ねようとリディアに近づいた。



リディア「エドガー、ちょ…待っ」


エドガー「《眠り姫》は眠っていないと……ね」



エドガーはリディアの訴えを遮り、その唇に口づけた。



するとエレンがきゃあきゃあと喜びだす。



エレン「お母さまはお父さま(王子さま)の《キス》でえいえんの眠りから覚めたのぉ〜!!」



リディア「エレン!もっ、もしかして《眠りの森の姫》の物語のことだったの?」
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