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□雨降る日には……
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あんなに晴れていたと思ったら次の日は雨。こんな不安定な時期はもう嫌だわと、リディアは窓辺のカーテンを引きながらまるで独り言のように呟いた。
「そんなに雨が嫌い?」
「ええ。だって外出できないし、それに妖精たちもこんなに雨が降ると遊びに来てくれないもの」
それが一番寂しいわと、リディアは同じ部屋のソファーで寛ぐ夫に告げる。
すると、エドガーは何を思いたったのか、ソファーから立ち上がり、リディアの元へと歩みよる。
「……?エドガー、どうしたの?」
その行動が一体何を意味するのかわからないまま、リディアはただじっと彼の様子を見守っている。
エドガーはリディアの前までやって来ると困ったようにリディアの頬に触れた。
「僕は雨が好きなのに、きみが嫌いだなんて言うと、寂しいよ」
「エドガー……」
夫の表情があまりにも悲しく見えたので、リディアは何故?と言う意味を込めて彼の名を呼ぶ。
「だって、雨が降ると妖精たちは遊びに来ない……。つまり僕がリディアと仲良くする時間が増えるってことになる。あっ、もちろん妖精たちのことをないがしろにしているわけじゃないからね。ただ、きみと妖精たちが楽しくお喋りしている姿を見ると――」


嫉妬してしまうんだ。

「なっ…!」
彼の話す内容に、リディアは頬が徐々に熱を帯びていくのを感じる。
まさか妖精にまで嫉妬心(ライバル心)を燃やすとは思いもしなかった。
「あのねエドガー、あたしは妖精たちとお話ししたりするけど、それが恋に変わるなんてこと、絶対にあり得ないんだから。だから、安心して」
そう言い、彼を安心させたつもりだったが、返ってその台詞が彼の不安を煽り立ててしまう。
「そんなのわからないよ。リディア、きみは僕と結婚してますます美しく、気品溢れる女性に変わったんだ。人間……妖精たちに狙われる可能性だって大いにある」
先程の困った表情から一変し、真剣な眼差しで見つめられ、今度はリディアが困惑してしまう。
「えっと、……だからあたしは大丈夫だって……」
精一杯己の意見を主張してみるが、なかなかエドガーは聞き入れてくれなかった。



そしてその夜、夫婦の寝室にて……





「リディア、昼間は言い争ってごめん。でも僕はほんとにきみを愛しているから…心配だったんだ」
「エドガー。ううん、あたしも悪かったの。あなたがあたしを心から愛してくれているからだってわかってたのにあたしったら……」
「リディア……」
エドガーは悲しみに沈むリディアの身体をそっと自分の元へ引き寄せた。
「リディア、こうやってお互いのことを思いやれる……僕たちってやっぱり夫妻だね」
「…エドガー……」




その晩、エドガーとリディアは“夫妻の愛”を更に育む一夜を過ごした………












おしまい。
 

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