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□彼女の日記 番外編“投げてしまったもの”
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娘のキャロルが見つけた恥ずかしい手紙を、リディアは何処に収納しようかと迷っていた。
「う〜ん、何処に直そうかしら……」
机の引き出しに入れたとしてもあのエドガーのことだ。
直ぐに見つけて……
「ああっ。ダメだわ、見つからない場所なんてないわ!!」
リディアはおろおろと世話しなく室内を動き回り、はたと顔を上げた。
「リディア、そんなに動き回ると目を回しちゃうよ」
「あ……」
いつの間に入ってきたのかエドガーが、壁に寄り掛かりリディアの行動を面白ろそうに眺めている。
「あっ、あ、エドガー。どうしたの?」
慌てて手にしていた手紙をドレスのポケットに隠し、何でもないふりをする。
しかし、リディアの行動はエドガーに筒抜け状態であった。
「リディア、ポケットに隠したのは何?」
「え、なっ、なんでもないわ」
「なんでもないなら、僕にも見せてくれるよね?」
「っ、それは……」
ジリジリとエドガーが距離を詰めるにつれ、リディアは後退せざるを得なくなる。
トンっと窓際の壁に背があたり、他に逃げ道がないかと辺りを見渡す。
「リディア、観念してポケットにある物を見せてくれないかい?」
「……っ」
これ以上は逃げられない。そう思った途端、ある方法がリディアの脳裏をよぎる。
「あ!!エドガーあれは何!?」
彼の後方を指さし、彼の注意がそちらに向いた瞬間、窓を開け、手紙をポイッと投げ捨てた。
振り返った彼の前に両手をヒラヒラさせて、なんでもなかったわ、ごめんなさいと苦笑しながらリディアは部屋を出て行く。
そんな彼女を見てエドガーはふぅとため息を吐いた。
「“エドガー、あなたがいない日なんてあたしには考えられない。しかも三日もだなんて。絶対に無理だわ。一日一回あなたに触れてもらわないと、あたし、苦しくて倒れてしまいそう……”」
「え?」
今まさに部屋から出ようとしたリディアの足が止まり、ゆっくりと彼の方へと向き直る。
彼は口元の端を緩やかに上げ、微笑んでいる。
「エドガー、今言った台詞って……」
リディアの顔は火がついたかのように赤くなっていく。
エドガーは片目を瞑り、意地悪な笑みをリディアに向けた。
「ああ、この台詞はある人の手紙に書かれていたものなんだ。こんなに僕を思ってくれているなんて、僕はほんとに幸せだよ」
ある人、なんて他人めいた言い方をするエドガーに、リディアは益々顔を赤らめた。
「それってあたしの手紙でしょ!!どうして勝手に読むの!!!」
「あれ?僕はリディアの手紙だなんて一言も言ってないけど?」
「言ってるのも同然よ!ああ、投げ捨ててしまったわ!!!早く拾いに行かなきゃ!」
自分の軽はずみな行動で投げ捨てた手紙を拾うべく、屋敷の外へと向かうリディアをエドガーは引き止めた。
「待ってリディア。こんな時間に外を出歩くなんて危険だ。明日、日が昇ってからにしよう」
「日が昇ってからじゃ遅いのよ!!」
バタンと勢いよくドアを閉じ駆けて行く妻の足音を聞きながら、エドガーはやってしまった!!と嘆く。
「言わなければ良かった。でも言わずにはいられないんだ……」
自分に言い聞かせるように反省するエドガーを他所にリディアは必死に手紙散策に時間を費やすのだった。
〜おしまい〜