版権の森
□誰よりも
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「−−以上、今日のオペレーションはこれより三時間後、開始するわ」
いつも通り、校長室でSSSメンバーによる会議が行われていた。
今日も天使が現れるはず、とゆりっぺはどこか意気込んでいた。
「はぁー、今日も終わった終わったぁ
オペレーションは三時間後開始だっけか?」
「………」
「ん?どうしたんだよ音無。 具合でも悪いのか?」
「ぁ、いや…そうじゃなくて…
…なぁ、日向」
「なんだよ?」
「ゆりって、強いよな」
「……は? 何、どうしたよ急に。
あっ、まさかゆりっぺに惚れたのかぁっ!?」
「違ぇーよっ! そうじゃなくて…なんか…さ、こう…芯が強いっていうか、俺達の前で弱音吐かないっていうか…
泣いてるとこなんか見たことねえし」
「……音無……。
…あぁ、そうだな。 ゆりっぺは強いな」
「日向……?」
そんなことを話している間、日向はどこかを見ていて、何かを懐かしむような目をしていた。
−廊下−
「…あぁ、もうそろそろオペレーション始まんな。
ちょっと校長室寄ってくか」
そう言い、もう中身の残り少ない冷たいジュースを口に流し込みながら、校長室へと向かった。
「ゆりっぺー、いるかー?」
扉を開けると、中は静かで誰もいないようだった。
「…みんなもう行ってんのか?
………ぉ」
誰もいないと判断し、扉を閉めようと歩き出そうとした瞬間、一つ見落としていたことに気がついた。
「…ゆりっぺ」
そう、いつもゆりっぺが座っている席。
その机に彼女が突っ伏していた。
静かにゆっくりと、規則正しい寝息を立てる度に、彼女の身体がそれと同時に小さく上下する。
「……寝て、る……」
ゆりっぺの寝てるとこなんて初めて見た。
それはとても、とても無防備に寝ていて。
見ているだけなら、ただの可愛い女の子だった。
いつもの彼女からなら とても想像のつかない姿。
「………そう、だよな。ゆりっぺだって疲れるよな」
気持ち良さそうに眠っている彼女を起こしてしまわないよう、ゆっくりと なるべく足音を立てずに近寄る。
「……いつもとは、全然違うなぁ」
−−彼女の頭にそっと手を乗せる。
ゆっくり、ゆっくりと撫でてやると、気持ち良いのか少し身じろいだ。
「−−……強い……、か…」
"あんたに何がわかんのよっっ!!
あんたなんかに、あたしの気持ちなんて、っ
……わかっ て、たまる…か…っ"
ぼろぼろと涙を流し 顔を涙でぐちゃぐちゃにして、その場に泣き崩れた少女。
"守りたい全てを30分で奪われた
そんなのって、ないじゃない…
……そんな理不尽って、ないじゃない……っ"
自分の家族を、大切な全てを。
30分という、そんな短い時間で無惨に奪われた。
−−本当に、理不尽な世界だ
"あたしだけが幸せになるなんて、そんなの許されないわ"
"…なんでだよ"
"……だって、自分の家族を……大切な家族を、
…あたしが…殺したようなものじゃない"
守りたかった もっとずっと、一緒にいたかった
もっと笑いたかった
愛されたかった
あの大切であたたかい場所で 自分の居場所で 過ごしていたかった
掌に流れる赤いものが怖かった
大切なものが目の前で壊されていくのが怖かった
耐えられなかった
−−あたしは どうしたらよかったの?
教えてよ
−ねぇ、
神様なんて 大嫌いだ
「……違う、違うぞ…ゆりっぺ」
"あたしが幸せになっていいわけ、ないじゃない!!
あたしがあの子たちの幸せを奪ったのよ!!"
「お前は幸せになっていい、幸せになっちゃ駄目なやつなんていねぇよ」
「お前がまた 大切なものを失うのが怖いなら 俺がお前を支える。
お前を絶対、一人になんてしない」
(絶対、)
「ひとりぼっちにしない」
だから
「お前が、自分が幸せになることが許されるわけないって思うなら
俺は お前が幸せにならなきゃ許さない」
きっと、笑って 過ごせる
そんな日が いつか
「日向、ここにいたのか!もうみんな配置についてるぞ!
あとゆりが見当たらないんだが、知らないか?」
「音無!あぁ、悪い 今行く。
…ゆりっぺは…
……どっか行った」
「本当かよ、リーダーのゆりがサボるなんて珍しいな…
…とにかく行くぞ!」
「…あぁ」
焦る音無と一緒に、部屋を出た。
−−静かに、安らかに眠る少女を残して。
お前は強い きっと、誰よりも強い。
でも誰よりも弱いんだ。
だから、俺達が支えないと 壊れてしまう。
(きっと、誰よりも弱くて 壊れやすくて 脆いから、)
お前は 幸せにならなきゃいけない。
せめて、今だけは安らかな眠りを。
−END−