拍手ミニ連載置き場

□愛媛の潜水艦(完結)
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愛媛の潜水艦(主人公side)


とりあえず私は選択肢を誤ったのだ。
うまい話には裏がある。それを身をもって体験しているのだ。今、まさに。

港の傍にある小さな民宿に生まれ、民宿で手伝いをし。民宿のおかげでこうして育ってきた私は、この不景気の中、裏寂れていく港町に半分愛着があり半分嫌気がさしていて。もう、ここはどう頑張っても活気のある街にはならないのではないかと。そう思っていた。うちにだって、年に泊まりに来る客は下手をすれば両手の指を折り返すくらいで足りる。元々海辺なもので夏場しか書入れ時がない。それなのに、最近もう少し南の方に区画整備で出来た白浜の観光地のお陰で、海はあれども泳げない漁港が主軸の港町は寂れていく一方なのだ。
元々ジャンルが違う。向こうは観光地遊覧地。こちらはちょっとお買い物に寄るところ。戦う土台が違うのにあれやこれや言っても仕方がない。幸いうちは、家族経営だったから人件費がかさばらない事もあってまだ経営できていたが、周りの旅館なんかは、軒並み看板を下ろさざるを得ない状況になっていた。

今年の夏休みの宿泊客スケジュールをチェックすれば、私や妹が借り出されるまでもない人数だったので、こうなったら出稼ぎとまではいかなくても、夏休み、どこかアルバイトが出来るところはないだろうかと。

そんな時、港で見つけた一枚の紙。昼を過ぎて漁も競りも終わった寂しい漁港に、風と共に飛んできたのだ。何気なく見てみれば、人員募集の紙。年齢不問、ハウスキーピング、食事の支度、その他主だった仕事が書かれていた。最後には「中学生の合宿の補佐」とあった。民宿の手伝いをしていた私には朝飯前な内容で。しかも、その下。給金欄。

期間一ヶ月、給金50万

アルバイトが出来るようになった高校一年生。目も眩む額だ。しかも、その一ヶ月の期間が丁度夏休みとかぶっている。むしろこれは、私のための仕事なのだと神の声を聞いた気がして、すぐさま連絡先に電話をした。民宿の娘でといった瞬間、面接も何もなしに期間初日の朝、港の倉庫街に来るようにといわれた。
慌てて家に帰って両親を説得。あまりな内容に渋り顔だったが、その紙を一通り見て、父親が首をかしげた。

「…潜水艦って、なんじゃ?」


説得した。押して参るようにその日私は指定の場所へ来た。
言われた荷物として着替えや何や。一月分。

「あんたが…50万の女?」

目の前にそびえたつような不気味な色の船が停泊している。船というか、まさに紙に書いてあった通りの潜水艦…なのだろう。口をあんぐりあけて見上げていると、不意に声をかけられたのでそちらを向くと、随分と生意気そうな目をした子が立っていた。背は私と同じくらい。モヒカン…とは言い難いとても奇抜な髪型に、剃ってある部分に赤いペイントがしてあった。腕を組んで態度が偉くでかそうで、その子を見るなり、とりあえず私は眉をしかめた。
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