□19:一夜
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「フヨウ、こっちにこい」


低い声が呼ぶ。
困ったように微笑んで、彼女は呼ばれるままに白ひげのそばに歩み寄った。
体格が遥かに違う彼と並べば、まさに比喩的表現で言えば親子の――実際そうだけれど――ようで。

ぐらら、と彼が優しく笑う様に、彼女もはにかんだように笑みを返す。
相変わらず親子としてはまだまだ駆け出しもいいところの、まだるっこしいほど微笑ましい二人だったが現状はぎしりぎしりと激しい嵐の真っ最中であり、マルコとジョズは船長の部屋に異物がその嵐の余波で飛び込んできたりして敬愛すべき白ひげに怪我の一つもさせないために待機しているのだ。

そんな様子を男たちは微塵も見せない。


「フヨウ、オヤジのそばで大人しくしていろよ、今度こそ」
「……ジョズ、あんまりいじめてやるなよい」
「怪我して欲しくないからこそ言っておかねばならないだろう」
「え、あの、」


状況が掴めない芙蓉が困ったようになんと言えば良いのか思案していると、彼女の頭上でグララ、と再び男が笑った。


「この二人は甲板には行けねえ、悪魔の実の能力者だからな」
「ええ、それは」
「だから船内で一番大事な場所を守るんだと、俺のことをまだまだ青くせぇ小僧っ子のくせに豪語して毎回こうやって嵐の度にこの部屋に来るのよォ」
「……え?」
「はん、オヤジは船長なんだからただでんと構えてろってんだよい!」
「そうだ、俺たちがオヤジを守ろうとするのは当たり前だろう」
「グララララッ、ガキがいっちょ前の口ィ利きやがって!」


楽しそうに笑う白ひげの言葉にかぶさるように、ガラスが割れる音がする。
窓から流木が入ってきたのだ、と理解したのは勢い良く飛び込んできたそれをマルコが蹴り飛ばしてからだった。
ぎょっとする芙蓉の背を、宥めるように白ひげのごつごつとした手が触れる。


「ああやって飛び込んでくるものを、アイツらは嵐が去るまで俺に近づけねえ」
「………」
「止めたって無駄だ、馬鹿息子どもだからな」
「………」
「お前と同じだ、アホンダラァ」
「………ひどいわ、……父さん」
「!」


白ひげの言葉は、愛情に満ち溢れていた。
息子に、娘に、変わらない愛情を注ぐ彼のその言葉と眼差しに釣られるように。

芙蓉が初めて彼を、そう呼んだ。
あれほど照れも躊躇いもあったというのに――この場にいるのがジョズとマルコだったからかもしれないけれども、すんなりと言葉に出せたことに彼女は満足していた。
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