□20:困ったことに
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嵐が開けて、それからまた数日経った。
陸地はまだ当分なく、海上での生活は特にアレ以降一切問題ない、むしろ平和すぎて退屈なほどだ。

そんな中、マルコは少しだけ困っていた。
別段困る内容ではないが、困っていた。


原因は芙蓉である。

無論彼女が仲間たちと打ち解けていないとか苛められていないだろうかとか海上生活に不自由はないだろうかだとか保護者めいたことから他の男が手を出したりしていないかと心配なわけだが。

どちらかといえば、そういった心配とは逆の心配が増えてきたのだ。


つまるところ、芙蓉を受け入れ始めた仲間たちによる包囲網、と言ったところか。
彼女を良く思わない連中もいることはいるが、逆に接触をしようとしていないことから問題視する必要はない。

問題は彼女を妹として大事にし始めた隊長格だったり、看護婦キャリーだったりだ。


彼らはマルコが彼女に寄せる気持ちも知っているし彼が必要視している問題を理解して歯痒くも思っているらしい。
キャリーに至っては『手を出さないアンタは不能か!』とまで暴言を吐いてくる始末だ(でも実際に手を出そうとしたらきっと攻撃してくるのもまたキャリーである)。

意外と思ったのは女好きで有名なイゾウとサッチが思いのほか芙蓉を妹として溺愛していることか。
ジョズもこっそりと彼女を溺愛しているが、それはまあ微笑ましいので放置の方向であるが、イゾウの溺愛はむしろマルコを近づけない勢いなのだ。
まぁそれでも彼女の方からマルコを見かければ声を掛けてくれるので言葉も交わせないということはないが、喋っている間も刺すような視線が気にならないといえば嘘だ。


(……まったく、困るほどに佳い女だよいお前さんは!)


そんな芙蓉を見遣って、マルコはため息をつくしかないのだ。

ちなみに現在そんな彼女は食堂で船員たちの衣服を繕っている。
サッチが気を利かせているのか餌付けしようとしているのかコーヒーとケーキがそっと添えられていることに芙蓉は気が付いているのだろうか。

そしてその横には当たり前のようにイゾウが鎮座していて、さらにその横には少し所在無さげにナミュールまで座っている。
隊長二人が見守る中、幾人かがぎょっとしたりおどおどしながら芙蓉に声を掛ければ、彼女は穏やかに衣服を受け取る。


「いつもそうやって繕いものやってんのかい」
「あらマルコさん」
「おや仕事はどうしたんだよお前さん」
「コーヒー取りに来たんだい、修繕費も馬鹿になんねぇや」
「ああ、嵐のか」
「思いの外、被害がでかかったねい」
「どっかで島に寄れそうか?」
「ああ、次の買出しは16番隊だったか……いやまだだねい、寄ろうと思ってたとこは海軍が丁度近くにいるらしいし島民に迷惑がかかっちまう」
「ふぅん……」


それを聞いたイゾウがつまらなそうに柳眉を顰める様を見て、マルコも苦笑を一つ。
海軍とやり合うこと自体は彼らも辞さないが、関係ない島民を巻き込むことは避けたい。
だが物資は欲しい。

となれば、緊急でもないのだから次の島を目指すしかないのだ。
なんせこの大所帯、こっそりといったところで目立つのは仕方がない。


「ところで、その縫い物」
「あ、ええ。私にはこれくらいしか出来ませんから」


芙蓉が穏やかにそう微笑むのを見て、マルコもそうかい、と穏やかに返した。
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