□03:揺れる気持ち
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マルコが航海士に礼を言って部屋を出ると、潮風が強く吹き付けてきた。

モビーディックに繋がって名前を告げた途端、悲鳴かと思うような叫びから始まって隊員やら隊長たちやら代わる代わる安否を聞いてきて。
何回同じことを言わせんだよい、とぼやきつつも緩む口元は隠せなかった。
とりあえずスクアードの船に乗ったことと恩人を掻っ攫ってきたという旨を伝えると、騒動をまとめたらしいジョズが呆れたようにわかった、とそれでも楽しそうに応じてくれたことで締めくくられた。


(あとは、フヨウが…笑ってくれりゃあいいんだが)


そんなことを考えながら戻る最中、何度も呼び止められては芙蓉がマルコのオンナか、と勘繰ったりからかったり。
呆れながらも言葉を濁せば、にやにやと笑みが返ってきてマルコは苦笑せざるをえない。


(………連れて来ちまったんだなあ)


無論、連れて来たことに後悔は――ある意味、彼女に申し訳ないほど後悔はまったくというほど感じていなかった。
単純に彼女が同じ世界にいる、それはマルコにとって喜びであった。


ただ、芙蓉にとって良かったのかと問われれば定かではない。

なにしろ何があったかわからないが、カリプソーに会ったとか父親がこちらの人間だったとか唐突にいろいろなことが起こった様子なのは確かだ。
いくら『何があっても不思議ではない』海だとしても、誰にだってヘビィな状況がいきなり起こっているのでは楽観もできないというものだ。

落ち込む彼女に思わず、存在理由を自分への依存にしてしまえと言葉を向けたが。
実際にどうだ、と問われるとマルコはひとつ深くため息を海にむけて吐き出してしまった。


家族愛か。
異性愛か。

それとも、ただの同情か。


(同情ではないねい)


自分に依存してしまえ、と感じたのは確かだ。
それがどの感情からかはまだ自分で明確にしたくなかったが、同情だけはないと理解はしている。


とりあえず、モビーディック号も急ぎ進路をこちらに向かわせると言っていたのでその悩みは持ち越すことにして、今は彼女の傍にいようと止めた足を再び前へと踏み出した。
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