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□04:嵐の夜に
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芙蓉と、スクアードのクルー達が和やかに食事をする風景はなぜだか妙に平和なものだとマルコは思った。
意外すぎる程に周囲が彼女を受け入れたことに目を見張ったが、スクアードが気に入ったらしい、というクルー内の話題からそうなったことは推測できた。
不思議な身の上をマルコに明かした彼女は、表面上はなにも変わった様子はない。
穏やかな笑みを浮かべ話をする彼女の蜂蜜色の瞳に陰りも見えない。
それでも時折マルコに向けられる視線には、迷いが見える。
「……ほら、フヨウ」
「え、なんですかこの肉の山」
「ちったあ食って太れよい」
「女性に太れとか鬼畜!」
「痩せっぽちが何言ってんだよい!」
まるでというか痴話喧嘩そのものの会話に周囲から冷やかしが入り、それに芙蓉が困ったように苦笑した。
嫌がっていないその様子に、マルコは目を細める。
(もし、俺の気持ちがそうだったとして)
今、マルコを拒まないのはこちらの世界に彼女の味方が彼しかいないから。
あちらの世界での彼と、立場は同じ。
それが恋愛感情なのかどうか見極めなければ、互いにとって満足いく結果どころかひどい結末になりかねない。
冷静に見極めなければ、とマルコが自身を戒めたところで急に船内が騒がしくなりだした。
「…何事だい!」
「海軍だ!」
「敵襲ーっ!」
マルコの問い掛けに誰かが怒鳴り返す。
その合間にも敵襲だ、配置につけ、と怒声が響く。
さっと顔色をなくした芙蓉を横目にマルコは彼女に気づかれないように舌打ちをした。
いつかは見てしまう光景にしろ――マルコの気持ちがどこにあるにしろ、彼女を手放す気にはなれなかったので――生々しい戦闘に、今まだ気が滅入っている彼女には早いと思わずにいられなかった。
一斉に、和やかだった男たちが鬼の形相でバタバタと走り出す中で芙蓉がきゅ、と唇を噛み締めてマルコをひたりと見つめた。
「行ってくるのね、マルコさん」
「ああ」
「……気をつけて」
「任せとけ」
近くでいつものことと構えている、年老いた料理人に彼女を頼む、とマルコは悠然と騒ぎの方へと足を進めたのだった。