1
□05:吐息
1ページ/4ページ
目が覚めれば、いつの間にか抱きしめられていたことに気がついて芙蓉はさっと頬に朱がさした。
同じベッドに横になっただけだが、それだけでも恥ずかしさは相当なものだ。
だが昨晩は初めて目にした戦闘に精神的な疲労が強く、横になるやいなやすぐに眠りについたのだ。
マルコがそばにいる、という安心感から。
(……私はやっぱり、この人のことを)
寄る辺がないのは、あちらでもこちらでも変わらない。
そう考えれば、出してしまった結論からはもう否定する余地もなく。
芙蓉はそっとまだ眠っているマルコを見つめて、その腕から抜け出した。
時計がないが、恐らくまだ夜明けと言えるくらいの時刻なのだろう。
うっすらと水平線に朱がさす様は、酷く儚く、それでいてまばゆいほどの美しさで。
窓越しに見ていたそれを、直に見たくなった芙蓉は空気の冷たさも気にすることなく甲板に出た。
ひやりとした海風が肺を満たし、突き刺すような朝日が全身を照らす。
恐らく見張りは立っているのだろうが未だ静けさの中にある船は、朝日の明るさで所々傷ついているのが見えて昨晩の激しい戦闘を物語っているようだった。
(きれい)
その生々しい戦闘跡を視界に入れながら、海面が金色に彩られる一瞬に目を奪われる。
マルコやスクアードからすれば見慣れた光景なのだろうが、芙蓉にはどんな宝物よりも美しくさえ思えた。
「なんだ、早起きだな」
「――スクアードさん」
「よオ」
「おはようございます」
背後からの声に応じた彼女の横に、スクアードが立つ。
ふと芙蓉が見遣れば、スクアードの体にも所々手当のあとが見受けられた。
「……昨日は、びっくりしました」
「ああ、まあなア」
「スクアードさんも無事で良かった」
「早々に負けたりなんざしねえよ、あんな海兵程度ならな」
「ふふ」
スクアードも海賊で。
普通の人間の常識として考えるならば、危険な相手だというのに。
芙蓉には昨晩の海兵よりもずっと好ましかった。
風貌は、厳ついしお世辞にも身奇麗とは言えないのに。
「不思議なモンだな」
「え?」
「あんたはひ弱い」
きっぱりと言われた事実に芙蓉は苦笑したが、スクアードは軽く手を振った。