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□06:人生論
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マルコは食堂で一人分だけのトレイを受け取り、さっさと口にする。
それは作業となんら変わらない淡々と口の中に詰め込む、そんな食事だった。
芙蓉に食事を届けたあと、彼は一人食堂にとって返し(彼にしては)遅めの朝食を迎えていた。
普段よりも味気無く思う食事を終え、だがすることもなくスプーンとフォークを皿に乗せたままぼうっと窓の向こうを見遣れば、視界が遮られる。
「……スクアードかい」
「何だ、シケた顔しやがって」
「ほっとけ」
「今、いいか」
「………」
かたん、とマルコは食器を片手に立ち上がり、さっさと片付けてドアへと歩を進めた。
ついと肩越しに視線を向けて、スクアードを見遣る。
「船長室かい」
「そうだな」
二人の男は互いに無言のまま船長室に足を踏み入れた。
「フヨウとは話したか」
「……おめぇさんには関係ないんじゃないかい?」
「ま、そうだな」
クッと喉で笑ったスクアードに、マルコは不快げに眉をしかめた。
からかうような様子だったスクアードだが、直ぐにその視線は真面目なものへと変わる。
「……ありゃあ奇妙な嬢ちゃんだ」
「………」
「悪ぃ意味じゃねえ」
どかり。
彼が座り慣れた椅子に座るのを眺め、マルコは壁に寄り掛かる。
「……柔らかい、な」
「ああ…」
スクアードがようやく見つけた言葉に、マルコも僅かに目を見開いてまさにそれだ、と同意した。
「イイ女だから、逃がすんじゃねエぞ」
「勝手なコト言うない」
「ほー」
「……ちぃと、どうしたもんかと思ってるだけで彼女を手放す気はさらさらないよい」
「悩んでたぞ、お前が話を聞いたら態度が変わるんじゃないかってな」
「………」
「図星か」
「どこまで聞いた?」
「なにも」
芙蓉はいつも静かに笑う女で、聞き上手。
それがスクアードの印象だ。
自分を売り込むわけでなく、かといって押し黙ってばかりでもない。
柔らかい受け答えと雰囲気。
だからこそ、マルコしかいない状況でそんな彼女を僅かに気遣う気持ちがあった。