□08:彼女の言葉
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俺はマルコの話を聞いて、居ても立ってもいられずに立ち上がって大股に船内に戻った。
途中、大渦蜘蛛海賊団のクルーやら俺の対の連中が何か話しかけてきたがおざなりに返した気がする(だって急いでたし! しょうがないよな!)。


マルコが言うには、彼女――フヨウちゃんはオヤジの実子だという。
そしてアイツと彼女の間では名乗る名乗らないで揉めている、ということだった。


『どうしたもんかねい』


ほとほと困った、というアイツの表情は苦笑しか浮かんでいなかったが俺はムカついていた。
マルコは恩があるっていうので強く出られないんだろうが、名乗りたいってあのコがきっとムチャを言っているに決まっている。
静止する声を振り切って船内を走り回れば、他のクルーよりも大柄なスクアードの姿とその影にひっそりと佇むようにいる彼女の姿。


(あんなおとなしそうな顔して、白ひげ海賊団に取り入ろうとしてるたぁスゲェなあ)


『家族』の多い白ひげ海賊団にあっても、実子となれば扱いは格別でその上惚れこんだ女の娘とくれば親父が大切にするのは目に見えてる。
それを利用しようと今まで白ひげに関わった女性やその子供と名乗る人物が彼らの前に現れたことが何度かあったし、マルコのような男を騙す女も目にしたことのある俺としては本当に怒り心頭と言ったところだった。


「おう、サッチ、いいところに来たな」
「あ?」
「ちょいとフヨウに手伝ってもらおうと思ったんだが不安があるんでな」
「すみません………」
「いや、縛った相手とはいえ海軍だしな、本当なら野郎どもに任せるんだが」


ちらり、とスクアードが俺に視線を投げかける。
その意味が分からなくて軽く眉を顰めた俺に、スクアードは口を開いた。


「前に襲撃に遭ってな、そのときの海軍のヤロウをまだ処断してねえ」
「ふぅん」
「だがいい加減決めねェとならねえから食堂に放置してあるのさ、俺は副船長のヤツを探してから来るからサッチとフヨウで見張っててくれ」
「………わかった」


本当の意味はそれじゃないだろ、という俺の言葉は口から出ることは無かった。
これがスクアードなりに何か意図のあってのことだったろうし、俺がフヨウという女を見定めるにはいいタイミングだとも思ったからだ。
………俺よりはずっと、スクアードは彼女を良く思っているようだが何かを探ろうとしているのは同じだ、と何故か思ったがそれも聞くことは出来なかった。


特別言葉を交わすことも無く、俺と彼女は食堂の中へ入る。
ソコには老齢の、俺もよく知っているコックがでんと座ってパイプをふかしながら新聞を読んでいて、その奥にぼろぼろの風体で縛り上げられた男が無造作に転がされていた。

ちらり、とコックがこちらに視線を投げかけて「いたのか」と俺を見て言って、ついで後ろの彼女に視線を合わせて「何か飲むか」と聞いた(なんだろうこの扱いの差!)。


「いえ、大丈夫です」


ありがとうございます、とやんわりと笑みを浮かべた姿はなんとも穏やかなもので、これが裏にオヤジの娘として大きいカオを見せようとしているとは本当に恐れ入ったもんだと思う。


「なんだい、俺には聞いてくれないのかよ」
「おめえは勝手に飲みやがれ、むしろ海の水で十分だ」
「ちょ…ひどくねえか!」
「それで嬢ちゃん、どうした」
「あ、いえ。スクアードさんがこちらにいるようにと」
「………そうか」


カタン、と彼女が捕虜の近くに腰掛ける。

そこから少し離れて俺が座った。
コックのじぃさんは、変わらない位置で俺たちのことなど眼中にないかのように再び新聞に目を落とす。


ゼィゼィと荒い呼吸に、捕虜のヤロウが座りなおしているのが見えた。
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