□09:花
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海賊の覚悟。


(聞きようによっちゃあ格好イイ言葉だな)


マルコは口元を歪めて細い腕が緩やかに持ち上げられるのを視界に認めて前へと踏み出していた。

頼りないほどの細い身体は、担ぎ上げたときにやはり軽くて。
そして肌に触れた彼女の指先が酷く冷たい。


「マルコさんッ、」
「もういいんだよい」
「――……ッ」
「十分、伝わった」


咎めるように背を叩く手が止まったのを感じてマルコは抱き方を変えた。
ようやく見えた表情は、今にも泣きそうな青い顔。


「ありがとな」
「なんでお礼、言うんですか……」
「お前が来てくれただけでも俺のワガママなのに、海賊になってくれて、かねい」
「変、なの」
「そうか?」
「そうだわ」


ぎゅ、とマルコの肩口を握りしめる彼女の手はまだ僅かに震えていて。


(初めて己の意思で、人を殺そうとしたんだ)


小さな罪悪感と、それほどまでの覚悟と。
マルコは抱く力を少しだけ、強くした。


(嗚呼、どうあがいたって手放せるはずがないねい)


か細さしか感じないその震える手に、愛しさが滲む。


「疲れたろい、あったかいモンでも貰って部屋で休もうや」
「……はい」


マルコは優しく芙蓉に話しかけながら、今後に思いを馳せた。
彼女を手に入れる前に、やらなければならないことがある。
本当は今すぐにでも抱いてしまいたいところだが、彼女に望むのは性的な関係だけではないのだ。
全部まるごと、傲岸不遜としかいいようのない、強欲な海賊らしい考えを心底真面目にマルコは考えていた。


「あの海兵は、生き延びりゃぁオマエを狙うだろうよい」
「……そうでしょう、ね」
「俺のそばから、離れたりするなよい」
「………ええ」


彼女の依存先が自分であれば、などとスクアードに余裕を見せていた気持ちはマルコから消え失せていた。
どうあっても手放せないのだから、すべてが自分の手に転がり落ちて――尚且つ彼女が傷付くことがないように――くること。

マルコは部屋のベッドに芙蓉を座らせて、優しく髪を撫でた。


「コーヒーでももらってくるからよい、ちょっと待ってろい」
「……ありがとうございます」
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